米オートデスクのカール・バス社長兼CEO

米オートデスクの社長兼CEOのカール・バス(Carl Bass)氏は9月18日、同社米国本社において、日本の報道関係者に向けて同社の事業戦略などについて説明。そのなかで、今後3~5年間で同社ビジネスの50%以上をクラウド環境に移行する考えを示した。

同社では、製造業向けのPLM360やSimulation360といったクラウドベースのソリューションを提供しているが、現在、同社のビジネスにおいてクラウドの売上構成比は5%以下に留まっている。

バス社長兼CEOは、「CADやCAMの分野においては、これまで高いハードウェアパフォーマンスが求められていたが、クラウドを活用することによって、小さな企業でも、大規模なハードウェア投資をせずに、大手企業と同様のリソースを活用することができる。また、同時に複数のデザインを走らせて検証するなど、短時間に最高の答えを出すことができる」とし、「新たな顧客利用を促進することで、クラウド利用を拡大したい」と、クラウド事業の拡大に意欲をみせた。

サンフランシスコにあるオートデスクのオフィス

また、米オートデスクのジェフ・コワルスキーCTOも、「同じ時間のなかで、いくつもの検証が同時に可能になり、結果として、挑戦的なデザインを作り上げるといったことにもつながる」と異口同音に語る。

「クラウドの最大の魅力は、無限のコンピューティングパワーを利用できるという点に尽きる。多くのユーザーは、コンピューティングリソースを気にすることなく、オートデスクの製品を利用できるようになる。35時間かかっていたデザインの作業が、クラウドコンピューティングのパワーを利用することで、1時間以内で完成するという例も出ている」(バス社長兼CEO)とする。

また、クラウドへの移行が進展しても、同社の売上高の減少にはつながらないと断言する。

「すでにクラウドベースでビジネスを行っている企業の例をみても、1顧客あたりの売上高は、オンプレミス型のシステムに比べても高い」などとし、クラウドビジネスを促進することで業績面でもプラスの効果があることを示した。 また、グローバルインダストリーマニュファクチュアリングマネージャーのリチャード・ブラッチャー氏は、「クラウドへの移行に関しては、セキュリティに対する不安があること、本格運用した際にはコスト増が問題になるのではないかと考えていること、また、自分たちの手元においておきたい、あるいは自分たちで管理したいという要望が根強く残っていることなどが、阻害要因になっている。そうした課題を払拭するような提案が必要になる」と指摘する。

オードデスクでは、クラウド製品においては、無償で利用できる試用環境を提案するなど、クラウドへの移行を図りやすい環境を確立する考えだ。

オートデスクでは、現在、3つの分野を市場ターゲットとする。

ひとつは製造業であり、代表的なのが、世界中の自動車メーカーが同社の製品を使用しているといった事実だ。さらに、スポーツ用品や玩具など、あらゆるプロダクトにオートデスクの製品が活用されているという。

メルセデス・ベンツがオートデスク製品を利用して設計したBioneと呼ばれる近未来の自動車のデザイン

2つめは建設業界。単にビルを建てるのではなく、様々なデータを活用しながら、環境などに配慮した形でビルを建設するといった事例があげられる。

最近では環境に配慮した形でのビル建設での活用といった事例もあげられるという

そして、3つめにはメディアやエンタテインメント業界での活用だ。劇場向けの映画やビデオなどにもオートデスクの技術が活用されているという。さらに別の観点からは、「クラウド」「ソーシャル」「モバイル」が鍵になるなどとした。

一方で、日本の市場に対しても言及。バス社長兼CEOは、「日本は大変重要な市場であり、なかでも製造業が最も重要な分野になる。製造業に関しては、日本は世界有数の市場だと捉えている」などと語った。

社内にあるThe Galleryと呼ばれる展示コーナー。オートデスク製品を利用した各社のデザインが展示されている