新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、産業用チタン合金の低コスト化・生産性向上技術を開発したと発表した。成果はNEDOの若手グラント(産業技術研究助成事業)の一環として、東北大学 金属材料研究所松本洋明助教、千葉晶彦教授らによるもの。ニッパツ(日本発条)と共同で開発された。詳細は9月19日に開催される日本金属学会秋期講演大会にて発表される。

チタン合金は比強度が高く、耐食性に優れるために、航空機分野、化学プラントなど多様な分野に広く使用されている。中でも、機械的性質のバランスが良いTi-6Al-4V合金は最も多く使用されている。しかし、チタン合金には切削加工や塑性加工が困難、低熱伝導率による焼き付きが生じやすいなどといった問題がある。これらの問題を解決する方法として超塑性現象を利用した加工があり、特に航空機分野において実用化されている。航空機分野では、現在注目されている炭素繊維との相性の良さからチタン合金の使用率が年々高まっており、今後も需要は増加すると見られる。

しかし、従来のTi-6Al-4V合金の超塑性成形は、800℃以上の高温、かつ10-4s-1~10-3s-1の低速ひずみ速度下の変形条件で行われるため、生産性が低いという問題を抱えていた。さらに、高温での加工のため金型の寿命が短いという欠点もある。これに対し、Ti合金の超塑性現象発現の低温化と高速化が強く望まれていた。

研究グループは2008年、チタン合金のα'マルテンサイトによる独自のTi合金の組織制御・加工技術「α'プロセッシング」を開発していた。また、2009年には、α'プロセッシングの加工条件を最適化することで、多量のひずみを要さずとも、粒径0.5μm以下の均質な超微細粒組織を形成させる技術の開発に成功していた。

Ti合金におけるα'マルテンサイト相は、準安定相であり、針状の微細組織を示し、内部には多量の欠陥が含まれているのが特徴。これを利用して今回、適切な熱間加工条件で加工を施すことにより、従来の(α+β)組織を加工した場合に比べて、均質な微細粒組織が得られる。この組織形成に伴い、従来に比べて高強度化、耐疲労特性など様々な特性が向上することを見出した。同技術は、様々な塑性加工(圧延加工、鍛造加工、棒材加工、線材加工)に展開可能であり、適切な圧延加工条件を用いることで粒径0.5μm以下の均質な超微細粒組織を有するTi-6Al-4V合金板材を製造することに成功したという。

α'プロセッシングにより圧延製造したTi-6Al-4V合金は、従来の超塑性加工条件に比べて約250℃低い650℃、従来より10~100倍速い10-2s-1の低温-高速加工条件においても、220%以上の巨大引張伸びを示す超塑性特性を発現した。従来のTi-6Al-4V合金では、同じ条件では超塑性特性を示さず、100%未満の引っ張り伸びしか示さないことから、同技術を用いることで、製品成形コストを従来のチタン合金と比較して、50%低減できる可能性があるという。

同成果は、チタン合金の製造コスト低減に貢献でき、すでに超塑性加工されている製品全般に展開できると研究グループでは説明しており、例えば、航空機用チタン合金部材、自動車、化学プラント、エネルギー製造用プラント、一般民生品、スポーツ用品などといった用途が考えられるという。さらに同成果の超塑性加工技術は、Ti-6Al-4V合金以外の他の(α+β)型合金にも展開可能であることから、それらの製造コストの低減にも寄与することが期待されるという。

なお研究グループは今後、α'プロセッシングの適用範囲を拡大させ、産業用チタンの製造コスト低減と生産性向上による用途拡大を目指すとするほか、チタンのリサイクル技術への応用にも取り組む考えとコメントしている。

組織制御・加工技術α'プロセッシングによって加工されたTi合金