大手半導体メーカーのFreescale Semiconductorは、6月18日~21日(現地時間)に米国テキサス州サンアントニオで顧客向けの講演会兼展示会「Freescale Technology Forum(FTF) Americas」を開催した。同社はこのイベントに合わせる形で19日(現地時間)、ARMコアを内蔵する32bitマイクロコントローラ「Vybrid(バイブリッド)」ファミリの車載用製品を発表した。
同製品の担当者である、AISG(Automotive, Industrial & Multi-market Solutions Group) Driver Information and Infotainment BusinessのLuke Smithwick氏にインタビューする機会をFTF Americas 2012の期間中に得たので、製品の位置付けと概要をご紹介しよう。
まず、車載用のVybridファミリは運転者向け情報システム(DIS:Driver Infomation System)に向けて開発された。ここでいう運転者向け情報システムとは計器パネル(速度計や回転計、距離計など)やオーディオ、ラジオ、カーナビ、リアビューカメラなどを指す。かつては8bitマイコン、16bitマイコン、32bitマイコンがそれぞれの機能や性能などの要求に合わせて搭載されてきた。
しかし最近では、ソフトウェア開発の作業負担増大を抑えるために、32bit RISCプロセッサコアであるARMコアを利用するようになってきた。現行世代である第3世代のDSIでは、アプリケーション処理を中心とするシステムにARMコアの「i.MX5」シリーズ、リアルタイム処理を中心とするシステムにPower Architectureコアの「Qorivva」シリーズを同社は提供してきた。
ただし、これまでの第3世代向け製品ではアプリケーション処理とリアルタイム処理の両方を担う1チップのコントローラが存在しなかった。
そこで次世代(第4世代)のDSI向けプロセッサ/コントローラ・ソリューションでは、アプリケーション処理とリアルタイム処理の両方を1チップで担う製品として、車載用Vybridを提供することとにした。
車載用Vybridは、CPUコアにARM Cortex-A5コアとARM Cortex-M4コアを内蔵しており、この点では従来のVybridファミリと変わらない。違うのは周辺回路(ペリフェラル)で、リアビューカメラの搭載を前提としたグラフィックス・プロセッサやビデオA/D変換器などを内蔵しているほか、CANバスやLINバスといった車載LANでは標準的なネットワークのインタフェースを搭載している。またワークメモリとして、1.5MBと大容量のSRAMを内蔵した。
ここで重要なのはリアビューカメラに対応していること。将来は乗用車の多くがリアビューカメラの映像をカーナビなどのディスプレイに表示する機能を備えるようになる。このことが前提になっている。
なおCortex-A5コア(およびNEONコアと浮動小数点プロセッサコア)はアプリケーション処理、Cortex-M4コアはリアルタイム処理を実行するという分担関係にある。電源電圧は3.3Vだけであり、非常にシンプルだ。製造技術は40nmのCMOSローパワー(LP)プロセスである。
車載用Vybridを利用することでシステム開発者は、部品点数を大幅に削減するとともに、ソフトウェア開発の手間を大きく省けることになる。外付け部品はDRAMと、シリアル・フラッシュメモリ、CAN物理層くらいで済む。ミドルウェアを開発する必要はほとんどない。また従来からARMコアの資産を持っている場合はそれも流用できることを考えれば、部品点数の少ないシンプルな基板によるノイズへの耐性向上やコスト低減ができ、かつソフトウェア開発負担を減らすことができるという、車載機器を開発するエンジニアにとって、非常に便利なソリューションとなるだろう。