北海道大学(北大)は9月13日、家庭用燃料電池の効率向上に寄与する原子が完全に混ざり合った新規合金触媒の開発したと発表した。成果は、同大 触媒化学研究センター 竹口竜弥准教授らによるもの。詳細は「Journal of the American Chemical Society」の9月5日号に掲載された。
固体高分子形燃料電池は、水の電気分解反応の逆反応を利用して、高い効率で電力を取り出すことができる。特に水素を燃料とし、高分子電解質膜を電解質として用いる固体高分子形水素-酸素燃料電池は、100℃以下の比較的低温でも動作し、小型化が容易であり、排出物が水のみのクリーンな装置であるため、自動車やモバイル電子機器の電源、家庭用コージェネレーションシステムとしての普及が期待されている。現在、普及が図られている家庭用固体高分子形燃料電池システムでは、燃料極触媒に白金-ルテニウム合金触媒が使用されているが、都市ガスから製造した水素の中に微量に含まれている一酸化炭素により被毒され、触媒活性が低下することが大きな問題となっている。
研究グループは、家庭用固体高分子形燃料電池システムに用いられている白金-ルテニウム合金触媒の合金化度(白金とルテニウムの混ざり具合)を最大値まで高めることによって、高い触媒活性と安定性を示す電極触媒を開発し、同センター 朝倉清高教授および物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス拠点 魚崎浩平コーディネーターと共同で、高エネルギー加速器研究機構の放射光科学研究施設のXAFS装置などを用いて、触媒機能の発現機構と高効率化の理由を明らかにした。同触媒を用いることにより、燃料である水素に微量の一酸化炭素が共存しても、それを酸化除去することで、貴金属の使用量を少なく高い効率で燃料電池発電が可能となり、貴金属資源の有効利用を実現したという。
水と油は激しく混合しても、やがて分離する。その性質と同じように、白金とルテニウムは、白金-白金およびルテニウム-ルテニウムという同種金属間の結合を作りやすく、白金相とルテニウム相に相分離が起こり、活性点である白金-ルテニウム結合が減少し触媒活性が低くなるという問題があった。今回の研究では、白金とルテニウムの前駆体混合物を、短時間で昇温し、急激に冷却するラピッドクウェンチング法により、新たなナノ白金-ルテニウム合金触媒を合成した。開発した原子が完全に混ざり合い、最大エントロピーを実現した合金触媒は、家庭用固体高分子形燃料電池システムに用いることができる触媒としては、一酸化炭素による被毒に対して、現在手に入れられる高活性な触媒の中で最も高い耐性を示し、高効率で発電を行うことができた。
新たなナノ白金-ルテニウム合金触媒上での一酸化炭素が除去されるルートについて、下記の電気化学酸化と水性ガスシフト反応の2つのルートに分けて速度を解析した。
- 電気化学酸化ルート:CO + OH → CO2 + H+ + e-
- 水性ガスシフト反応ルート:CO + H2O → CO2 + H2
この結果、燃料電池を効率よく運転している条件では、主に水性ガスシフト反応ルートで、一酸化炭素が酸化除去されることを発見した。
高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所 放射光科学研究施設で、白金-ルテニウム合金触媒の構造分析を行ったところ、白金、ルテニウムへの結合の割合は、白金から見てもルテニウムから見ても3:2で、各原子の存在比に完全に一致することから、原子が完全に混ざり合った状態であることがわかった。これまでは白金-ルテニウム触媒で原子が完全に混ざり合った合金触媒の報告例はなかった。今後、同技術を利用することで、原子レベルで元素の分布を制御し、原子が完全に混ざり合った新しい合金触媒の開発や、新たな触媒の設計が可能となり、燃料電池の分野に限らず、エネルギー環境問題解決へも寄与することが期待されるとコメントしている。