TANAKAホールディングスは9月11日、同グループの製造事業を展開する田中貴金属工業が、従来の10倍の強度を持つ「熱電対(高温用温度計)素線」の開発に成功し、9月12日からその製品である「TEMPLAT」のサンプル提供を開始することを発表した。
熱電対は、2種類の金属線をつなぎ合わせて電気回路にしたもので、接合部分と根元に温度差があると電圧(熱起電力)が発生する現象を利用し、電圧の大きさから温度を割り出すことができる高温用温度計だ。種類によって使用温度範囲や測定精度などの特性が違うので、ユーザーは使用目的によって種類を選ぶ仕組みだ。
R型の熱電対は、1000℃以上の酸化雰囲気中で使用することができるため、鉄鋼や半導体、ガラス製造時などの温度管理に最適だが、高温下で破断しやすいという欠点がある。
今回のTEMPLATは、鉄鋼や半導体、ガラスなどの製造プロセスにおいて温度管理する際、1000~1600℃の高温領域を測ることができる「R型熱電対」に使われる素線だ。
一般的に使われる直径0.5mmのR型熱電対素線が、1400℃の使用環境下において100時間で破断する場合の「クリープ強度」を比べた場合、従来技術では2MPaの応力で破断するが、今回開発された熱電対素線では、20MPaの応力まで破断しない。
高温下でのクリープ強度を従来の10倍に高めたことで、R型熱電対を使用するユーザーが頻繁に悩まされている破断のトラブルを、減少させることができるというわけだ。
なおクリープとは、一定の温度下で一定の大きさの応力が作用する時、時間と共に材料に変形が増加する現象のことだ。つまり、クリープ強度とは、一定の時間内に指定されたクリープが生じる際の応力のことである。
また破断する理由は、マイナス側に使われている純白金の強度、特に高温クリープ強度が極めて低いためだ。室温に置いた白金は150MPaまでの応力では破断しないが、1400℃では2MPaという小さい応力によって100時間で破断してしまう。熱電対の組立に使われる一般的な「2孔アルミナ絶縁管」は、直径が4mmで長さが100mmあると4gを超えるため、直径0.5mmの白金線に直接この絶縁管を10個かけると、白金線に印加される応力が2MPaを超えて100時間以内に破断するというわけだ。このため、ユーザーは熱電対の直径を大きくすることや、複数の熱電対を設置することなどで、破断を抑制する対策を行っているが、運用効率が悪く、コストが高くなることが課題となっていた。
今回開発されたR型熱電対の素線は、マイナス極に「酸化物分散強化(ODS)白金」を採用し、マイナス側の高温クリープ強度を従来の10倍に高めることで、従来の10倍の強度を持たすことに成功した(画像1・2)。
画像1(左)は今回開発に成功したODS白金による熱電対素線で、画像2は一般的に使われている高純度白金による熱電対素線。ODS白金の微細構造は、現在一般的に使われている高純度白金の微細構造とはまったく異なり、結晶粒が素線の延伸方向に高度に引き伸ばされていることがわかる。この構造により、1400℃の使用環境下における高いクリープ強度が実現された |
このODS白金は、「酸化ジルコニウム」を下地組織の「白金母相」中に分散させたものだ。温度測定の許容精度は、国際電気標準会議(IEC)の規格で最も精度が高い(許容差が少ない)とされる「クラス1」を達成しており、現在、マイナス側に採用されている純白金とほぼ同じ熱起電力特性を示すことができる。
サンプルは最大3mまでの長さで提供が可能。同社は今後、顧客のニーズを合わせて、製造設備や材料開発の強化を図っていくとした。