日本IBMは9月11日、都内で開催したプライベートカンファレンス「THINK Forum Japan」において、プレス向けに2015年に向けたグローバルの成長戦略と日本国内での取り組みなどの説明を行った。

日本IBM代表取締役社長であるマーティン・イエッター氏

同社が掲げる2015年までの経営計画の実現には、「産業がどこに向かっているのかを見極める必要がある」(日本IBM代表取締役社長であるマーティン・イエッター氏)とのことで、その見極めのヒントとして、ITが継続的に高い価値へとシフトしていっていること、それによる新しいコンピューティングの時代が台頭しつつあること、そしてその結果として、新しい顧客が生み出され、それを中心に新たな市場を開拓していくことを挙げた。

「企業が研究開発費を抑制すると、事業運営は大きなトラブルに見舞われることとなる。我々が過去から学ぶのは、常に新しく作り変える必要がある(リインベンション)ということ。現在、3つの大きな分野の4つの主要成長分野(スマータープラネット、ビジネスアナリティクス、クラウド、成長市場)に向けて投資を行っている」(同)とし、例えば同社が開発したPOWER 750サーバを90台使用したWatsonシステムは2011年に米国の人気クイズ番組のJeopardy!で過去のグランドチャンピオン2人を破っており、予測型のリアルタイムアナリティクスとして、医療現場や金融分野の複雑な課題解決に向けた活用の模索が進められているとする。

より高い価値へとシフトが進み、それに伴う新たなコンピューティングの時代が到来し、その結果、新たな市場と新たな顧客が生み出されることとなる

「誰がテクノロジーを使うのかが問題になってくる。企業であれ、行政であれ、都市であれ、使用者はバックオフィスからフロントオフィスへと移行してきている。将来的にはCIOよりもCMOやCFOの方が分析分野などを中心にテクノロジーにコストを支払うことが予測されている」(同)とするほか、日本ではグローバル化へどう対応していくかといった事柄への関心が高い傾向にあるとしており、「日本IBMとしては、第一に顧客へのコミットメントとして、顧客のチャレンジを理解するための人材確保を進めていく。また、中堅中小企業や地方企業に対する理解を進めている」ということを強調した。

現在、企業でITを活用するのはCIOやIT担当者だが、将来的にはデータの解析などを事業運営などに活用するためにCMOやCFOがCIO以上にITコストを支払うことが予測される。また、そうしたITに精通していない層が簡単に活用できるように、テクノロジーを組み合わせボタンを押すだけで望む計算をしてくれるようなソリューションなどもすでに展開されつつある

こうした考え方をもとに、7月1日付で営業体制を改変。仙台、名古屋、大阪、福岡の4都市にオフィスを開設し、東京以外の商圏における顧客との関係強化を図っていくとする。「日本はIT市場の規模で言えば、米国に次いで2位。その規模はフランス、ドイツ、中国を併せたほどだ。東京を除いた場合でも相当な市場規模であり、スケーラビリティを武器にすることでそうした地方での商機を拡大することができる」(同)と地方における顧客との関係強化を図っていくことで、売り上げの拡大を図っていくとした。

7月1日付で仙台、名古屋、大阪、福岡の4都市にオフィスが開設された。また、IBMは2011年より「IBM Smarter Cities Challengeプログラム」をスタートさせており、日本からは温暖化対策をテーマに挙げた札幌、新次元の防災・環境都市の実現を目指す仙台、復興モデル都市を目指す石巻の3都市が選出されており、IBMがこうした課題に取り組むためのアドバイスを行っている

「THINK Forum Japan」にて展示されたWatsonを活用したヘルスケアアプリケーションデモ。医師の診断を支援するもので、患者の電子カルテや診療記録と、論文、医療ガイドライン、ベストプラクティスなどと比較して、可能性のある疾病などを提示してくれる。また、論文などから必要な部分を抜き出して、疾病などに対する治療プランの提案をしてくれるほか、患者からの要望を受けて、プランを変更するなどの柔軟な対応も可能だという(例えば抗がん剤治療を受ける場合、抗がん剤の影響で毛が抜けるのを避けたいというニーズをWatsonに伝えると、それを考慮しつつ、効果の高い治療法を提案してくれたりする)。ここまで行くと、医者そのものもいらず、患者とWatsonでやりとりをすれば良いのではないかと思うが、Watsonはあくまで医師の判断を支援するものであり、Watsonそのものが決定を下すわけではないということであった

8月29日に発表されたばかりのメインフレーム「IBM zEnterprise EC12(zEC12)」の実機も展示されていた。右がzEC12のプロセッサモジュール。6コアプロセッサが6チップとストレージコントローラが2チップ。いずれも同社の32nm SOIプロセスで製造されており、コアあたりの動作周波数は5.5GHz(従来比約5.7%増)、1秒間あたりの命令処理数は78BIPS(従来は52BIPS)へと引き上げられた。zEC12では、これが1スロットあたり4モジュール搭載でき、4スロット(4ブック)搭載することが可能だ。プロセッサのキャッシュはL1とL2が各コア内部、L3がシェアードとなっているほか、ストレージコントローラのeDRAM(1チップあたり64MB)をL4として扱うことが可能で、これは4ブックまで共有して使うことができるため、外部DRAMを活用することなく高速に演算を行いながらも消費電力を抑えることを可能としている。また、システムの冷却には不凍液(さび止め入り)を利用しているほか、1.6TBのSSDを2台RAID構成とした「FLASH EXPRESS」をページングデバイスとして活用することで、HDDへのアクセスを減らし、演算速度の向上を可能としている。なお、同社ではプロセス微細化の限界からSSDのコストがあまり下がらないと見ており、2015年ころにはFCRAMの活用を、その後はMRAMの活用を検討しているとのことであった

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