ノークリサーチは9月10日、2012年の国内中堅・中小企業における個人向け無償クラウドサービスの業務用途での利用状況に関する調査の分析結果を発表した。

この調査は、対象企業を日本全国/全業種の500億円未満の中堅・中小企業、対象職責を企業経営もしくはITインフラの導入/選定/運用作業に関わる社員に対して実施されたもの。調査実施時期は2012年6月初旬、有効回答件数は1,000社となっている。

個人向けクラウドを業務で使っている企業は何%?

同社によれば、昨今、個人向けに提供されている様々な技術が企業向けにも適用されていく現象を表した「コンシューマライゼーション」という言葉が注目を集めているという。個人で無償利用できるクラウドサービスは既に数多く存在し、それらを業務においても活用しようとするビジネスマンも多く、これもコンシューマライゼーションに向けた動きといえる。

年商500億円未満の中堅・中小企業に対し、「個人で無償利用可能なクラウドサービスの業務用途での活用状況」を尋ねたところ、「利用したことはない」が全体で62.9%となっており、逆に言えば4割弱の企業が何らかの形でこうしたクラウドサービスを利用していることになる。

個人向けでも無償利用可能なクラウドサービスを業務用途で利用/利用したことのあるもの(いくつでも) 出典:ノークリサーチ

企業規模が大きくなるにつれ、「業務種別を問わず、全面的に許可されている」や「特に規定はなく、暗黙的に認められている」という回答が減少し、「公式には利用が禁止されている」が増加している。年商5億円未満/従業員数20人未満では「業務種別を問わず、全面的に許可されている」が突出して多い。IT関連投資費用の捻出が難しい小規模企業においては個人で無償利用可能なクラウドサービスを業務用途で活用することが有効な選択肢となっている状況がうかがえる。

個人向けでも無償利用可能なクラウドサービスの許可状況(年商別) 出典:ノークリサーチ

一方、「特定業務に限って、部分的に許可されている」という項目については企業規模によってそれほど大きな差が見られない。メール添付では送ることができない大容量のデータを急いで顧客や取引先に送る必要があるといった場合には比較的規模の大きな企業でも個人向け無償サービスを利用している例が見られる。ただし、こうした急場での利用においてはミスも発生しやすいため、個人情報やデータの漏洩を発生させないためのルールや基準作りを検討する必要もあると考えられる。

個人向けでも無償利用可能なクラウドサービスの許可状況(従業員数別) 出典:ノークリサーチ

中小企業に蔓延する"暗黙の了解"

「ITの管理/運用を担当する社員は特に決まっておらず、その都度適切な社員が対応している」という企業(その多くは年商5億円未満、従業員数20人未満の小規模企業)においては「業務種別を問わず、全面的に許可されている」が30.8%に達しており、「自社の許可状況を知らない」という回答も24.9%と高い。このことから、小規模企業においてはIT活用手段を個々の社員の選択・判断に任せている傾向が強いといえる。

個人で無償利用可能なクラウドサービスの許可状況について(年商500億円未満の中堅・中小企業全体での結果) 出典:ノークリサーチ

同社によれば、留意すべきは「ITの管理/運用を担当する役割を持つ社員が1名いる」といった企業(いわゆる「ひとり情シス」の状態である中小企業)において、「特に規定はなく、暗黙的に認められている」が32.7%と最も高くなっている点だと指摘。担当者は重要なシステムの管理/運用に追われ、個々の社員が利用するITツールの管理までは対応できない。その結果、個人で無償利用可能なクラウドサービスについても利用可否の基準が曖昧なまま、暗黙的に利用されるという状態となりやすく、こうした状態を放置すると、重要な個人情報やデータの漏洩が発生してしまう可能性もあるため、「ひとり情シス状態」の中小企業が適材適所で個人向け無償クラウドサービスを安全に活用することのできるツールやサービスが望まれている。

IT運用管理の人員体制別に集計した結果 出典:ノークリサーチ

ビジネスにおいてクラウドサービスが満たすべき条件とは?

「個人向けでも無償利用可能なクラウドサービスが業務用途でも利用可能となるために満たすべき事柄(複数回答可)」を尋ねた結果を年商別に集計したところ、全体としては個人情報/重要データの漏洩やデータの消失を防ぐという観点から、「アクセス権限の設定」、「保存データの暗号化」、「データバックアップ」といった項目が比較的多く挙げられた。

年商別に見た場合にも、「アクセス権限の設定」や「保存データの暗号化」はいずれの年商規模においても多く挙げられている。一方、「データバックアップ」については企業規模が小さくなるにつれて増加し、逆に企業規模が大きくなるにつれて「通信経路の暗号化」が多くなっている。

個人向けでも無償利用可能なクラウドサービスが業務用途でも利用可能となるために満たすべき事柄(複数回答可) 出典:ノークリサーチ

小規模企業では個人で無償利用可能なクラウドサービスを有償の企業向けツールの代わりとして社員が継続的に利用するケースが多いのに対し、中堅企業においては大容量データを急いで顧客や取引先に送るなどといった臨時での社外とのやりとりに用いられる場面が多く、こうした利用場面の違いが上記の結果の背景にあるものと考えられるという。

また、企業規模が大きくなるにつれて「内部統制上の監査基準への準拠」も増えている。スマートデバイスの普及も後押しとなり、個人向け無償ツールを活用することでITコストを削減し、同時に個々の社員の業務効率を向上させたいと考える中堅・中小企業が今後増えてくることも予想される。その際は、上場企業も少なくない中堅上位企業(年商300億円以上~500億円未満)では「各種の監査基準への適合性」が個人向け無償サービス選定における重要ポイントとなる可能性もあると締めくくられている。