東京大学大学院農学生命科学研究科の三坂巧准教授や森永製菓ヘルスケア事業部の川上晋平さんらの研究チームは、離乳期におけるさまざまな食経験が、味覚に関連する脳領域を活性化し、味覚の感受性に大きな影響を及ぼすことをマウスの実験で明らかにした。
食事の味や食感に関する情報は、大脳皮質の味覚野・体性感覚野に伝達されて、味や食感が認識される。こうした仕組みはある程度明らかにされているが、食に関する情報が脳に与える影響についてはよく知られていなかった。味覚以外の感覚、例えば視覚や聴覚は幼少期のある時期に刺激を受けると、脳の関連領域が発達し、特別な能力を獲得するに至ることから、研究チームは、哺乳類の生後の食環境が劇的に変化する離乳期に着目し、実験した。
マウスの離乳期(生後21日)の前後で、大脳皮質の味覚野・体性感覚野で発現量が大きく変動しているタンパク質を調べたところ、神経伝達物質の放出に関わる特定のタンパク質「SNAP (Synaptosomal associated protein) 25」が離乳後に、神経細胞内に顕著に蓄積されていた。離乳期に固形食を食べたのが理由と考え、固形エサを与えたマウスと離乳期も母乳で育てたマウスの脳内SNAP25の量を比較したところ、固形エサのマウスで顕著にSNAP25が蓄積していた。
さらに、単純な味の刺激によってもSNAP25の量が変動するかを調べた。人工甘味料の「サッカリン」、唐辛子に含まれる辛味物質の「カプサイシン」を摂取させたところ、味覚野・体性感覚野においてSNAP25が蓄積する様子が観察され、その蓄積部位は味の種類によってわずかに異なった。
これらの結果は、離乳期の食経験によって味覚領域の神経回路が発達し、味覚の感受性が変化する可能性を示すもので、ヒトの脳の発達における味覚刺激の重要性の研究や、「乳幼児期にどのような物を、いつ食べ始めるべきか」といった「食育」の面からも、大きな手がかりとなりそうだ。
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