放射線医学総合研究所(NIRS)は9月4日、肝硬変や肝がんにつながる脂肪肝を超早期に診断できるPET薬剤を開発し、マウスにおける脂肪肝の発症や進行をモニタリングすることに成功したと発表した。

成果は、NIRS 分子イメージング研究センター 分子認識研究プログラム 分子プローブ開発チームの謝琳 博士研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間9月4日付けで「Journal of Hepatology」オンライン版に掲載された。

脂肪肝とは肝臓内部に中性脂肪が過剰に入り込んでいる状態をいう。正常では3~4%だが、脂肪肝では中性脂肪が30%以上の過剰な状態になる。脂肪肝の状態が続くと肝臓が繊維化し、肝機能が低下し、脂肪性肝炎から肝硬変を経て肝がんに移行することがわかっている。

脂肪性肝炎の診断には血液検査や、超音波検査、CT、MRIなどがあるが、各種画像検査は困難であり、肝生検のみが現段階では唯一の方法だ。しかし、この方法は患者に負担が大きく、容易に実施できる検査法ではない。そのため臨床では多くの脂肪性肝炎患者が存在しているのにも関わらず、診断が行われず肝硬変へ進展していく患者が少なくない。そこで、患者に優しく、判断が容易で、より早期に検出できる脂肪肝の診断方法が期待されていた。

そうした課題に対し研究グループは、さまざまな肝疾患において「ミトコンドリア障害」が起きていることに着目。ミトコンドリア障害とは、ミトコンドリア自体の減少、またはミトコンドリア内の酵素不足により、細胞内のエネルギーの通貨ともいえるATP(アデノシン三リン酸)が不足し、細胞の機能が損なわれることをいう。そして肝細胞が異常に活性化した時、「ミトコンドリア膜」に存在する「トランスロケータータンパク質(TSPO)」が増加することも特徴だ。

その結果、ミトコンドリア膜の透過性が強まり、中性脂肪や活性酸素が増加し、さらにはアポトーシス誘導が増加して脂肪肝に至るが、このTSPOに特異的に結合するPETプローブ「[18F]FEDAC」を用いることで、実験に使用された「脂肪肝モデルマウス」の肝臓における放射能濃度を測定し、TSPOの量との相関を確認することによって、マウスを大きく傷つけることなく脂肪肝の発症および進行を鑑別できる画像診断法の開発が行われた。

肝臓内のミトコンドリアは肝臓が行う分解や解毒などすべての処理に必要なエネルギーを通常は「グリコーゲン」を分解することにより作っている。脂肪が細胞の中に大量に入り込むと脂肪からエネルギーを作るようになるが、その際、コレステロールなどに親和性の高いTSPOが増加していく。

そして、TSPOの増加によりミトコンドリアはより多くの活性酸素種を放出して肝細胞を傷つけてしまい、相乗的に肝細胞の状態を悪化させてしまう。そのため時間が経つごとに実験に使われたマウスの肝臓は単純性脂肪肝から、炎症・繊維化へと状態が悪化していったのである。

実験に使用した脂肪肝モデルマウスは、「MCD食(メチオニン・コリン欠損食:methionine/choline-deficient diet)」を投与することで作製し、肝重量/体重比、血清AST/ALTなどが測定された上で、脂肪肝の病理変化が経時的に調べられた。その結果、時間の経過につれ、肝臓が単純性脂肪肝から肝炎を経て肝硬変に悪化していることが確認されたのである。

そこで、MCD食投与後0週、2週、4週、8週の脂肪肝モデルマウスおよび正常なマウスを、それぞれ1匹ずつに麻酔をかけた後、TSPOに特異的に結合する[18F]FEDAC(3.5-3.7MBq/0.1mL)を静脈注射し、ただちに「小動物用PET」で肝臓における放射能濃度を測定し、PET画像(撮像時間は30分)およびCT画像が取得された。

画像1。実験は脂肪肝モデルマウスを使って行われた

その結果、脂肪肝の進行に伴い、肝臓における[18F]FEDACの集積は経時的に増加し、遺伝子解析の結果からもTSPOの発現量およびTSPO機能に関わる各遺伝子の発現量も高くなっていたことが明らかとなった。一方、同時に取得したCT画像のシグナルは低く、脂肪肝の進行に伴う経時的変化はあまり見られなかった。

画像2は、マウスの肝臓のPET画像とCT画像。マウスのPET画像は脂肪肝の病変が進むにつれて画像が明るくなっているのがわかる。マウスの右下に写っているのは胃。使用したPETカメラはSmall-animal Inveon PET scanner(Siemens,Knoxville, TN)。PET終了後、すぐCT撮像が行われた。使用したCTカメラはSmall-animal CT system, R_mCT2(Rigaku, Tokyo)だ。

画像2。マウスの肝臓のPET画像とCT画像

画像3。脂肪肝モデルマウスの肝臓で、脂肪肝と肝炎が進行していく様子

今回の研究を通じて、研究グループはミトコンドリア膜に存在する特定のタンパク質であるTSPOに特異的に結合するPET薬剤[18F]FEDACをPETで使用することにより、脂肪肝の進行度を高い定量的な相関性で示すことを発見した。

これらの結果から、脂肪肝の早期診断や進行度の判定および分類に対し、[18F]FEDAC-PETは高感度かつ特異性を持つ有用な診断ツールであることが証明された形だ。今回の研究成果をヒトへの応用を考え発展させることで、PET検査が、脂肪肝の診断や進行度の判定に対しても有効な手段となる可能性が期待でき、今後、臨床への応用が期待されるという。

また、脂肪肝だけでなく、ミトコンドリア障害に関わるほかの生活習慣病の診断と予防にも役に立てていきたいと考えていると、謝琳博士研究員らは語っている。