大手半導体メーカーのFreescale Semiconductorは、6月18日~21日に米国テキサス州サンアントニオで顧客向けの講演会兼展示会「Freescale Technology Forum Americas(FTF Americas 2012)」を開催した。6月20日の昼には、ネットワーク製品とマルチメディア製品を担当する事業部門「NMSG(Networking & Multimedia Solutions Group)」のSenior Vice President and General Managerを務めるTom Deitrich氏による報道機関向けの講演セッションが設けられていた。本レポートでは、その概要をご紹介したい。
NMSG(Networking & Multimedia Solutions Group)のSenior Vice President and General Managerを務めるTom Deitrich氏 |
NMSGの事業規模は2011年に16億ドル。Freescaleの売り上げ全体の35%を占める。主力分野は3つあり、サービス・プロバイダ向けが59%、汎用組込向けが23%、エンタープライズ向けが18%を占める。
通信・ネットワーク向けの半導体市場におけるFreescaleの位置付けは大きい。通信(有線および無線)用組込みプロセッサ市場と高出力RFトランジスタ市場ではトップシェアを占める。前者のでのシェアは52%、後者でのシェアは62%といずれも半分を超えている。
Freescaleの強みは幅広い製品系列にあるとDeitrich氏は説明した。通信用プロセッサ、DSP、RF、ソフトウェア、SoCのすべてをそろえているのはFreescaleだけだと、比較表を用いて強調していた。
インテリジェント化するネットワーク
通信・ネットワークへの対応は人々とデバイス、システムといったあらゆる分野に急速に普及しており、世界中でこれらが結びつけられるようになってきた。そこで重要になるのが「インテリジェント・ネットワーク」、「モバイル・ネットワーク」、「セキュリティ/信頼性」、「スマート・デバイス」である。
例えばネットワークのインテリジェント化では、無数の小さなパケットを短時間で処理する能力がネットワークに求められるようになる。そのほか、2016年までにモバイル・データ・トラフィックの71%をクラウド・アプリケーションが占めるようになり、マシン間のトラフィックが現在の22倍に増大し、20億台のマシンが無線通信環境と接続されるとの展望が示された。
このような市場の変化に向け、Freescaleはマルチコア・プロセッサや通信ソフトウェア、リファレンス・デザインなどの製品を提供していく。そうした次世代のニーズに対応する製品の代表として通信用プロセッサ「QorIQ」シリーズのマルチコア製品である「T1042」と「T2080」が紹介された。
CPUコアに依存しない通信アーキテクチャ「Layerscape」
ここでDeitrich氏は、次世代のQorIQプラットフォームである「Layerscape(レイヤスケイプ)」を紹介した。LayerscapeはCPUコアに依存しないアーキテクチャのプラットフォームであり、経路制御処理とデータ転送処理を独立に実行するほか、高位言語によるプログラミングを可能にする。大原氏による詳しいレポート記事がすでに掲載されているので、興味のある方は参照されたい。
今回のセッションではLayerscapeの概要と基本的な構造、対応するプロセッサ製品の概要が説明された。次世代QorIQプラットフォーム「Layerscape」では「LS-1」および「LS-2」と呼ぶローエンド品が提供される。これまでQorIQプロセッサはいずれもPower ArchitectureプロセッサのCPUコアを搭載してきたが、「LS-1」と「LS-2」はARM Cortex-AアーキテクチャのCPUコアを搭載する。
そしてLayerscapeにおけるSDN(Software Defined Networking)対応の概要も説明された。SDNの要は、経路制御処理とデータ転送処理を独立に実行することであり、ミドルウェアである「OpenFlow」はその1つ。Freescaleのネットワーク処理ソフトウェア群「VortiQa」が「OpenFlow」を利用できるようにPSP(Platform Services Package)を用意する。
モバイル移動体通信向けの小さなセルが今後は急増
ここからDeitrich氏は、話題を「インテリジェント・ネットワーク」から「モバイル・ネットワーク」に転じた。モバイル・ネットワークの世界ではスモール・セルの数がマクロ・セルの数を2012年末までに追い越す。スモール・セルは今後も急増し、2012年には320万だったのが2016年には5900万に達するとの予測が示された。
またネットワーク接続されたモバイル・デバイスの台数は、2012年中に世界の人口を超える。そして世界を飛び交うデータ・トラフィックの数は2016年までに1カ月当たりで10EB(エクサバイト:10の18乗バイト)を突破するようになる。その中でメディアタブレット経由のトラフィックは1EBを超える。モバイル・ネットワークにおけるデータ・トラフィックの増加ぶりは凄まじい。年率2倍のペースで増加すると予測していた。
そして基地局向けプロセッサ「QorIQ Qonverge」の新製品「B4420」が紹介された。メトロ・セルおよびマクロ・セルの基地局用プロセッサである。また、RFパワーの新製品10品種もアナウンスした。
メディアタブレットの操作感が様々なデバイスへ波及
最後にDeitrich氏は主題を「モバイル・ネットワーク」から「スマート・デバイス」に転じた。2015年までにプロセッサ・ベースのシステムの中でスマート・デバイスが占める割合は数量ベースで3分の1を超え、金額ベースで75%に達する。スマート・デバイスの潜在市場規模は2020年までに250億台を突破し、現在の4倍を超える台数となる。
こうした流れに併せてコンシューマとエンタープライズを問わず、デバイスの違いを超えた共通の操作感をユーザーは求めるようになってくる。すなわち、メディアタブレットに似たユーザー・インタフェースがいろいろなデバイスに載るようになる。
この分野でFreescaleが提供する主力製品が、ARMコアのマルチメディアプロセッサ「i.MX」シリーズである。現在は第6世代品としてARM Cortex-A9コアを搭載した「i.MX 6」シリーズを投入中だ。すでに150を超える顧客を獲得しており、大手自動車メーカー10社中5社と旅客機用娯楽情報システム・メーカー6社すべてに採用されたとする。
こうしてみると、エンドユーザーが活用するネットワークデバイスへの対応や、さまざまな規模の通信セルへの対応、そして基地局やその先のデータセンターでのインテリジェント化への対応と、幅広い種類の半導体をネットワークのあらゆる階層へ提供することで、同社が通信・ネットワーク分野で強い存在感を示していることがうかがえる。これまでも同社はPower Architectureプロセッサのハイパフォーマンスを活用して、相当強力なポジションを築いてきたわけだが、これに低消費電力を武器としたARMコアも加わってきたことを考えれば、そのポジションがさらに一段と高いものになる可能性が高いことは自ずと想像できる話であった。