東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)は9月4日、「Ia型超新星」のメカニズムとして、2説ある内の、連星系において白色矮星に伴星(相方の星)からのガスが降着して重くなった結果として爆発するという「単独白色矮星説(Single Degenerate:SD)説」について、白色矮星が自転していることを新たに考慮した結果、Ia型超新星爆発が起きた時には伴星がヘリウムの白色矮星に進化して暗くなっている場合が多いことを発見し、一部のIa型超新星で伴星が見つかっていないことなどすべてを合理的にSD説で説明できると発表した。

このことにより、SD説によって、伴星の存在が観測される場合とされない場合とを統一的に説明できるようになったとする。成果は、東大大学院 総合文化研究科の蜂巣泉准教授、慶應義塾大学理工学部の加藤万里子教授、カブリIPMUの野本憲一教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、9月1日付けで米国天文学会誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

超新星は星が大爆発をする華麗な現象として知られているが、超新星の中でもIa型超新星は、明るさがほぼ一定であることから宇宙の加速膨張の発見にもつながった「標準光源」として利用できることや、鉄を主とした元素の起源などとして、重要な役割を持っている。

Ia型超新星のメカニズムとして、連星系中の白色矮星で核反応が暴走して爆発するというモデルは受け入れられているが、その起源を巡っては、2説の間で論争が続いている状況だ。1説は冒頭で述べたとおりのSD説(蜂巣准教授、加藤教授、野本教授が最初に提唱した)で、もう1説は、2つの白色矮星が合体する「二重白色矮星の合体説(Double Degenerate:DD)説」である。

しかし最近では、多数の超新星の探査が進み、近距離の超新星では、爆発する直前の連星系がどちらのタイプなのかを推定することも可能になってきた。例えば、最近発見された超新星「PTF11kx」や1604年に発見された「ケプラーの超新星」では、爆発前の白色矮星の伴星が赤色巨星であることからSD説が支持され、DD説では説明することができない。

一方で、2011年におおぐま座のM101銀河に出現した超新星「SN2011fe」の爆発前の写真や、いくつかの超新星残骸の爆発後の写真では伴星を発見できないことから、DD説に有利、SD説に不利といわれてきた。

SD説のメカニズムは、白色矮星が伴星からガスを受け取り、限界まで重くなると爆発的に核反応が進行し、Ia型超新星になると考えられている。超新星爆発を起こす直前の状態では、白色矮星と連星系をなす伴星として、赤色巨星(画像1)か、主系列星(画像2)が考えられていた。

これらのケースの場合は、爆発の衝撃で伴星のガスがはぎとられるので、水素ガスが観測にかかる。また、これらは重い白色矮星であり、燃料がたくさんあるので、Ia型超新星の中でも特に明るく輝くのである。

画像1は、赤色巨星(左)と重い白色矮星の連星系で、赤色巨星からガスが白色矮星の方へ落下し、降着円盤を形成して最終的には白色矮星へ降り注ぐ様子を描いた想像図。

回帰新星「T CrB(かんむり座T星)」、「RS Oph(へびつかい座RS星)」などはこのような連星系に相当し、白色矮星の重さはともに太陽質量の1.35倍程度なので、もう少し白色矮星が重くなれば、Ia型超新星として爆発するだろうと考えられている。ちなみに、繰り返し爆発を起こすものを「回帰新星」と呼ぶ。

画像2は、重い白色矮星(左)と主系列星の連星系と考えられる、回帰新星「U Sco(さそり座U星)」の想像図。白色矮星が明るい時期には、このように降着円盤と伴星が照らされて、明るくなっている。また伴星の上に見えているのは、降着円盤の影だ。

白色矮星は非常に重く、太陽質量の1.37倍以上はあると考えられている。この図は近接連星系なので2星間の距離は小さく、画像1の連星系の1/10~1/100程度。

画像1。赤色巨星(左)と重い白色矮星の連星系で、赤色巨星からガスが白色矮星の方へ落下し、降着円盤を形成して最終的には白色矮星へ降り注ぐ様子を描いた想像図

画像2。重い白色矮星(左)と主系列星の連星系と考えられる、回帰新星「U Sco(さそり座U星)」の想像図

また超新星爆発が起きる白色矮星の質量の限界は、太陽質量の約1.4倍の「チャンドラセカール質量」であるとされる。ところが、白色矮星がガスを受け取る時には、コマ回しのようにガスの角運動量も受け取るため、白色矮星は高速で自転していることが予想されるという。

自転が非常に速い場合には、遠心力のために中心密度が低くなり、白色矮星全体の質量がチャンドラセカール質量より大きくなっても、すぐには超新星爆発しない場合がある。爆発するまでの時間内に、伴星からガスが降って来るので、どのくらい重くなるかは、連星系の進化とスピンダウンとの兼ね合いで決まる形だ。

かなり時間が経ち、スピンダウンして自転が遅くなってから爆発すると考えられる。ちなみにどれだけ時間が必要になるのかは、角運動量輸送のメカニズムによるので、ケースバイケースだ。

太陽質量の1.4~1.5倍程度だと、高速自転する白色矮星がスピンダウンして爆発するまでの時間は10億年程度あり、そうして白色矮星が爆発しないでいる内に、伴星も進化して白色矮星になってしまい、つまり連星系は白色矮星のペアとなることもある(画像3)。

ただし、距離が離れているために合体はしない。また、これらはとても暗くガスもまとっていないため、重い方の白色矮星の自転が遅くなって爆発した時、ガスも観測されないし、爆発前に撮影されていたとしても、伴星が写っていないというわけだ。

画像3は、今回の研究が予言する爆発前の連星系の想像図。爆発するはずの重い白色矮星は右側にあるが、すでに暗くなっていて見えておらず、左の伴星も進化が進みかなり暗くなっている。

時間が経てば、左の星もさらに暗い白色矮星になり観測にかからなくなる。画像1、画像2の連星系いずれも爆発前にはこのような状態になるという。今回の研究では、大多数のIa型超新星はこのように暗い状態で爆発することを明らかにした。

画像3。今回の研究が予言する爆発前の連星系の想像図

今回の研究では、これらの経過を定量的に見積もった上でSD説で連星系の進化を計算し、(例えば主系列星2つからなる連星系が1000個あった場合)最終的にどのくらいの重さの白色矮星が何割できるかが計算された(画像4)。

重い白色矮星は、爆発時に核燃料が多いために明るくなる。この結果を観測的に求めたIa型超新星の明るさの頻度分布と比較して、今回の理論計算が一致することが示された形だ。

画像4。1000個のIa型超新星が爆発した時、爆発の時点で、白色矮星がどのくらい重くなっていたかの分布を示したもの

従来の研究では、白色矮星の質量がチャンドラセカール質量に達すると、すぐにIa型超新星爆発を起こすと考えられてきた。しかし今回の研究では、白色矮星の自転を考慮に入れたところ、約半数は太陽質量の1.4から1.5倍で爆発するが、残りの約半数はもっと重くなってから爆発を起こすことが新たにわかった。

さらに白色矮星の重さの分布は、観測されるIa型超新星の明るさの分布(Ia型超新星は明るさがほぼ一定だが、多少は差がある)と一致することを示した。これまで大部分のIa型超新星は爆発前に暗く、周囲のガスも検出されていなかったことから、DD説が有力との見方もあったが、今回の研究では、SD説でも大部分のIa型超新星は爆発前に暗くてガスもないことを示し、さらに明るいIa型超新星と暗いIa型超新星の数の分布も理論的に解明したのである。

これまでのSD説では、爆発前の天体は周囲にガスがあるものが圧倒的に多いことが難点とされてきた。今回の研究はそれを覆し、爆発前に暗くガスも検出されないIa型超新星が大部分で、一方、ガスがあるIa型超新星も少ないが確実に存在することを理論的に説明し、定量的にも観測的統計と一致することを示した形だ。

研究グループの1人である加藤教授は、DD説では直接説明できないケースがいくつも観測されているのに対し、SD説ではすべてを説明できるようになったことから、「論争が決着したのではないか」とコメントしている。