情報通信研究機構(NICT)、大阪大学(阪大)、東芝の3者は、ゲリラ豪雨(局地的大雨)や竜巻などを観測するための「フェーズドアレイ気象レーダ」(画像1~4)の開発に成功し、阪大・吹田キャンパスにて試験観測を開始したことを共同で発表した。
画像3。画像3。左がレーダ処理装置(データ処理・監視制御・表示)、右がレーダ制御装置(駆動制御・分電盤) |
画像4。FA気象レーダによる初期観測結果。台風4号に伴う降雨の3次元表示。大阪南部の降水域については、鉛直断面(カラー)を示している |
近年、ゲリラ豪雨や竜巻による被害が問題となっている。このような局所的で突発的な大気現象の詳細な構造や、前兆現象を直接観測するのに最も有効な手段は、気象レーダであるという。
従来から、台風や低気圧、梅雨前線などによる降雨を観測するために、大型の気象レーダが日本全土を覆うように配備され、最近では、都市域の降雨をより細かく観測できる小型の「Xバンドマルチパラメータ(MP)レーダ」の整備が進められている。XバンドMPレーダは、9GHz帯・波長約3cmの周波数帯のXバンドを用いた、ドップラーおよび二重偏波観測が可能なレーダのことだ。
ただし、従来のレーダはパラボラアンテナを機械的に回転させて降雨観測を行うため、地上付近の降雨分布観測には1~5分、降水の3次元立体観測には5分以上の時間を要してしまうといった課題があった。
局地的大雨をもたらす積乱雲は10分程度で急発達し、竜巻もものの数分で発生し移動するため、それらの兆候を迅速に察知するためには、より短時間で詳細な3次元構造を観測できるFA気象レーダ技術の実現が期待されていたというわけだ。
3者は共同で、Xバンドの「FA気象レーダ」の開発に2008年から取り組んできており(画像5)、2012年5月に阪大・吹田キャンパスの電気系建屋屋上に設置し、調整作業を経て、ようやく今回試験観測に至ったという次第だ。
FA気象レーダとは、多数のアンテナ素子を配列し、それぞれの素子における送信および受信電波の位相を制御することで、電子的にビーム方向を変えることができるレーダのことである。パラボラアンテナを機械的に回転させる一般的なレーダと異なり、瞬間的にビーム方向を自由に変化させることができるため、航空機やミサイルなどの飛翔体検出に用いられることが多い。
FA気象レーダでは、128本の「スロットアレイアンテナ」による「デジタルビームフォーミング(DBF)」を採用することで、観測時間を10~30秒に短縮することに成功している(画像6)。
スロットアレイアンテナとは、多くのスロット(溝穴)を開けた、大電力のマイクロ波を通す導波管(スロットアンテナ)をアレイ状に並べたアンテナのことだ。FA気象レーダでは、横倒しにした長さ2mのスロットアンテナを縦方向に128本並べることで(サイズは約2m×2m、ビーム幅は約1度)、縦方向(仰角方向)に電子走査を行う1次元FAアンテナとしている。
そしてDBFとは、多数のアンテナ素子で構成されるアレイアンテナにおいてそれぞれのアンテナ素子の信号をデジタル処理することにより、複数のアンテナビームを形成する技術のことだ。
FA気象レーダでは仰角方向に5~10度程度のビーム幅の電波を送信して、雨粒の散乱で戻ってくる電波を128本のスロットアンテナで独立に受信し、その受信信号をソフトウェア上で合成処理することで、約1度の分解能で全角の観測値を同時に得ることができる仕組みとなっている。
ちなみに従来型のパラボラアンテナ型のレーダでは、3次元観測を行うためには、そのパラボラアンテナを仰角を変えながら10数回転させる必要があった。しかし、FA気象では、仰角方向にDBFを用いた電子走査(最大112仰角)を行うことで、アンテナを1回転させるだけで半径15~60km、高度14kmまでの範囲における隙間のない詳細な3次元降水分布を観測することが可能となっている(画像7)。
なお3次元降水分布についてだが、一般に配信されるレーダ観測情報は、地図上にマッピングされた地上付近の(2次元)降雨分布のみであるが、雨は上空の雲中で生成され成長しながら地上に落下してくるため、上空の降水(雪・霰・雨など)の3次元構造を観測することで、大雨のメカニズム解明や10~30分程度の短時間予測が可能となるという。
既存の気象レーダでも、通常3次元観測は行われており、「ゲリラ豪雨の卵」や「竜巻の親雲」などが観測されているが、それらのより詳細な鉛直構造や時間変動が求められているというわけだ。
今後、局地的大雨や集中豪雨などの現象を対象として、性能評価試験を兼ねた観測を行う予定。FA気象により得られる詳細な3次元観測データは、短時間に大雨をもたらす積乱雲のメカニズムを明らかにできるだろうという。また、気象予測の高精度化、また局所的・突発的な気象災害の前兆現象の検出や短時間予報(ナウキャスト)情報の配信などの実現も期待されるとしている。