大手半導体メーカーのFreescale Semiconductorは、6月18日~21日に米国テキサス州サンアントニオで顧客向けの講演会兼展示会「Freescale Technology Forum(FTF) Americas」を開催した。6月20日の午後には、自動車用製品と産業機器用製品を担当する事業部門「AISG(Automotive, Industrial & Multi-market Solutions Group)」のSenior Vice President and General Managerを務めるReza Kazerounian氏による報道機関向け講演セッションが設けられていた。本レポートでは、その概要をご紹介したい。
AISG(Automotive, Industrial & Multi-market Solutions Group)のSenior Vice President and General Managerを務めるReza Kazerounian氏 |
AISGの事業規模は2011年に24億ドル。Freescaleの売り上げ全体の52%を占める。AISGは自動車向けとインダストリアル&汎用向けに分かれており、自動車向けがAISGの売り上げの70%を占める。自動車向けは「シャシー・安全」、「ボディ」、「運転者情報システム」、「パワートレーン」に分かれている。インダストリアル&汎用向けでは「ポータブル医療」や組込機器」、「スマートグリッド」、「ファクトリ/ビルディング・オートメーション」などの分野がある。
北米でトップ、世界でもトップクラスの自動車用半導体事業
Kazerounian氏は前半で、自動車市場における同社の取り組みを語った。半導体市場における同社の位置付けだが、地元である北米市場で特に強い。米国の自動車用半導体市場ではトップシェアで、世界のマイコン市場では2位、世界の自動車用マイコン市場でも2位、世界の自動車エアバッグ用加速度センサでも2位のシェアを占めている。
現在の自動車産業における重要課題が「環境」と「安全」であることは良く知られている。Kazerounian氏の講演で興味深かったのは「環境」よりも「安全」を前に持ってきたことだ。「交通事故の死者ゼロ」と「排気ガスのゼロ」が自動車用半導体事業における究極の目標だと述べていた。こういった具体的な目標を日本の自動車用半導体メーカーから聞くことは残念ながら、あまりない。
そして自動車用半導体市場ではハイブリッド自動車/電気自動車向けとADAS(Advanced Driver Assistance Systems)向け、運転者情報システム向けが成長分野であることを強調した。これらの成長分野に投入していくマイクロプロセッサとマイクロコントローラが32ビット・マイクロプロセッサ「i.MX」や32ビット・マイクロコントローラ「Qorivva」、8/16ビット・マイクロコントローラ「S08/S12」などである。最近では32ビット・プロセッサと32ビット・マイコンを融合した「Vybrid」の自動車向け製品も開発したほか、アナログ回路とパワー回路を集積した16ビット・マイコン「S12 MagniV」も製品化しており、その力の入れ具合がうかがえる。
またエレクトロニクス化の進展により自動車用マイコンに載せるアプリケーション・ソフトウェアのサイズも大規模になってきており、マイコンが内蔵するフラッシュメモリの容量拡大と微細化を積極的に進めていることを強調していたほか、自動車用センサ製品では、エアバッグ用加速度センサ、安定制御用の低重力加速度センサ、タイヤ空気圧モニタの集積化ソリューション、パワートレーン用圧力センサなどを展開していくと述べていた。
組込みの世界でも32ビットが主流に
後半はインダストリアル&汎用向けの話題だ。
世界のマイコン(マイクロコントローラ)市場の動向はというと、2011年から2015年にかけて、世界市場は年平均4%で成長する。成長が目立つのは32ビット・マイコンで、年平均の成長率は7%。そのため32ビット・マイコンが今後の成長をけん引するキー・デバイスになるという。
マイコンの応用分野として同社が注力するのは、「医療」、「スマートグリッド」、「物流」、「アプライアンス」、「エネルギー変換」、「自動化と制御」といった分野であり、これらの分野に向け、ハイエンドからローエンドまでの多彩なマイコン製品群を投入している。ハイエンドにはPower Architectureマイコン「PXシリーズ」があり、次にアプリケーション・プロセッサとマイクロコントローラを融合した「Vybridシリーズ」、その下にARM Cortex-M4/M0+コアの「Kinetisシリーズ」、そして「ColdFire+シリーズ」、16ビットの「DSC(Digital Signal Controllers)シリーズ」、ローエンドの8ビット「S08シリーズ」と続く。
また業界標準のARMアーキテクチャを採用したマイコンでは、最も広い製品系列をそろえたとする。ローエンドのARM Cortex-M0+コアを内蔵した「Kinetis Lシリーズ」、ハイエンドのARM Cortex-M4コアを内蔵した「Kinetis K/Xシリーズ」、ARM Cortex-M4コアとARM Cortex-A5コアを混載する「Vybridシリーズ」がある。
将来に向けた開発投資
最後に同氏は将来に向けた最新の開発例として、3つの事例を挙げた。はじめは、マイコンに内蔵させるフラッシュメモリ技術である。シリコンのナノクリスタルに電荷を蓄えるチャージトラップ型のフラッシュメモリ技術で、将来のプロセス微細化にも対応可能だ。
もう1つは、ARM Cortex-M0+コアを内蔵した「Kinetis Lシリーズ」だ。32ビット・マイコンでありながら、消費電力が16ビット/8ビット・マイコン並みに低いことが特長となっている。
そして最後は、ARM Cortex-M4コアとARM Cortex-A5コアを混載する「Vybridシリーズ」である。リアルタイム制御はCortex-M4コアが処理し、ヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)はCortex-A5コアが処理する。
Power ArchitectureとARMを中心としたマイコン製品群だが、Vybridのように汎用のARMコアを選択しながら、まったく異なる2つのコアを搭載するなど、単に動作周波数やペリフェラルの種類だけを変えてマイコンの頭数だけそろえたというわけではなく、新たなニーズにどう対応しようか、という取り組みが見えた講演であった。今後、そうした取り組みが差別化要因となり、やがて強みへと変化を遂げていくかが垣間見える興味深い話であった。