東北大学は、宮城県医師会および宮城県内の12広域消防本部に全面的な協力を得て、東日本大震災後に心不全・急性冠症候群(不安定狭心症および心筋梗塞)・脳卒中(脳梗塞および脳出血)・心肺停止・肺炎が増加したことを明らかにしたと発表した。

成果は、東北大大学院 医学系研究科 循環器内科学の下川宏明教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、8月28日付けでヨーロッパ心臓病学会の学会誌「European Heart Journal」にオンライン掲載された。

東日本大震災が心血管病発症に与えた影響を明らかにするため、今回の研究では、震災4週間前の2011年2月11日から震災15週間後の6月30日までの宮城県における全12消防本部の救急車の搬送記録の調査を実施。また、比較のため2008年から2010年の3年間の同時期の救急搬送記録も調査された(調査総件数は124152件)。

心不全・急性冠症候群(不安定狭心症および心筋梗塞)・脳卒中(脳梗塞および脳出血)・心肺停止・肺炎の5疾患について調査を行った結果、これらの疾患は2008年から2010年と比較し、いずれも震災後に明らかな増加が認められたという(画像)。

対象疾患の週間発生件数の推移

これらの疾患の増加の時間経過には明らかな違いがあり、心不全と肺炎の増加は震災後約6~8週まで長期間持続。脳卒中と心肺停止は4月7日の最大余震の後に第2のピークを形成した。疾患により異なった時間経過を示すことも明らかにされたのである(画像)。

また、これらの増加は、年齢・性別・居住地域によらず認められたところから、宮城県内では、老若男女を問わず、また沿岸部・内陸部を問わず、県民が等しく大きなストレスを受けたことが示唆された。唯一肺炎のみは沿岸部でより多いという結果で、これは、津波による直接被害の影響と思われるという。

今回の研究は、震災と心血管病発症について、広範囲かつ長期的な期間に渡って行われた世界で最初の研究であり、また、震災後に心不全が増加することが初めて明らかにされたものであり、心血管疾患増加の背景には、ストレスや、薬剤の不足、塩分の過剰摂取などさまざまな要因が推定されているが、今回の研究は、今後の災害医療の発展への貢献が期待されるものになるという。

そのため、これらの結果を受け、これまでいわれていた肺血栓塞栓症などに加え、災害時にはさまざまな心血管病について予防対策を講じる必要があると考えられると、下川教授は述べている。