iPhoneやiPadを中心に、企業のスマートデバイス導入事例が増えている。先行導入事例を参考に、これからの導入を考えている企業も多いことだろう。そこで、日本企業のスマートデバイスの導入状況はどうなっているのか、導入にあたって気をつけるべきことは何かについて、最近話題のBYODの扱いも含めて、ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ シニアアナリストである針生恵理氏に聞いた。
大規模事例増えているようで導入率は3割程度
最近、スマートデバイスの大規模導入事例が紹介されることが多くなってきている。まるで大手企業で働く人々の多くがすでにスマートデバイスを手にして働いているようにも思えてくるほどだが、現状はそこまでいっていないようだ。
「紹介される事例は増えていますが、全体としては大規模に展開したいという企業はそれほど多くありません。企業としての導入率は25~30%程度で、多くの場合、部署単位など企業内の一部に限っての導入です。従業員の10%未満にしか展開していないという企業が全体の70~80%でしょう」と針生氏は現実を語る。
ただ、企業側の意識がスマートデバイスに向いているのは確かなようだ。PCが唯一のデジタルデバイスだった時代からは変化し、企業はスマートデバイスを活用したいと考えているが、どこから手をつけてよいのかわからないのだという。
「ガートナーにも問い合わせがあるのですが、多いのは『スマートデバイスは何に使えますか?』というものです。まだまだ暗中模索の状態にあります」と針生氏。
セキュリティより法務や人事の問題が壁
「スマートデバイスの企業導入で問題になるのは、技術的要素ももちろんありますが、人事や法務など関連する要素が多いことです。従来の携帯電話を総務部門が扱っていたという事情も影響しています」と針生氏は説明する。
つまり、社員に配布する携帯電話の管理を、多くの企業は総務部門が担当してきた。しかし、電話と簡単なメール程度しか使わないフィーチャーフォンとは違い、スマートフォンの場合は業務システムやデータにもアクセスできる。技術的にはIT部門の担当としたいところだが、利用料金や端末の管理を従来になってきた総務部門との調整も必要だ。
また、PCとは違ってオフィス外で使うことが基本として考えられているものだけに、業務時間に使う場合はどうするのか、業務時間外にそれを使って業務をさせる場合には賃金等がどうなるのかというような、勤労面の問題も出てくるのだという。
「ただ、スマートデバイスはすでに多くのビジネスパーソンがパーソナル端末として利用しています。その便利さを十分理解した上で、エンドユーザーや経営層がぜひ使いたいと声を上げているのが現状です。IT部門はもっと前からスマートデバイスの有用性はわかっていたものの、多くの問題があることも知っていたために足踏みをしていた中、双方からの要求に応じなければならなくなり、具体的な使い方や問題点の洗い直しを急いでいる段階でしょう」と針生氏は指摘する。