補助金制度もある今注目の節電ツール「HEMS」
2012年の夏も暑い。家庭においては節約的な意味で、社会においては温室化ガス排出量抑制という意味で長く節電が叫ばれてきたが、その流れを一変させたのが2011年の東日本大震災だ。福島の原子力発電所事故によって特に関東で切実な電力不足が予想され、一時は計画停電まで実施された。その後、国内に点在する原子力発電所が停止したことで、電力不足は全国的に深刻な問題となり、特に2012年夏は関西地方で深刻な状況になるとされた。
この一大危機に、政府は節電を促進するための取り組みを行っている。経済産業省は「節電.go.jp」という政府の節電ポータルサイトを公開し、電力使用状況や節電アイデアなどを発信している。具体的な節電目標の値も発表され、2011年には、前年比15%の節電に成功した家庭に抽選で景品を出すといった取り組みも行われた。
今夏は、幸いにして企業や家庭の取り組みのおかげで大停電などは起こっていない。それでも電力需給状況は余裕のない状態だ。企業や店舗での冷房需要が大きいために夏期が注目されるが、実は家庭での利用でみると冬期の暖房需要も見逃せない。夏だけの我慢ではなく、1年を通じての節電体勢が求められている。
家庭での節電といえば、家庭で使う電力を自給自足するという考え方での太陽光発電などがメジャーだ。しかし導入には大きなコストがかかる。コジェネレーションも同じだ。そうした大がかりな節電方法ではなく、もっと簡易で、導入しやすいものとして注目されているのが「HEMS (Home Energy Management System : 家庭向けエネルギー管理システム)」だ。
家庭での電力利用状況を"見える化"するHEMSは、その結果と自分の行動を合わせ見ることで節電のためのヒントとすることができる。比較的安価に導入できることもポイントであり、この導入を促進するために経済産業省が補助金制度を実施している。補助金制度の執行を行うのは、一般財団法人 環境共創イニシアチブ (SII)。SIIが選定した機器を導入した場合には、10万円までの補助金が受けられるというものだ。
対象機器は8月15日時点で18社44製品。電機・通信会社やハウスメーカーなど各社からさまざまなサービスが提供されているが、ひときわ安価かつ手軽に導入できるものとして注目されているのが、NTT東日本の「フレッツ・ミルエネ」だ。
利用量の"見える化"から、節電のアクションにつなげる「フレッツ・ミルエネ」
「フレッツ・ミルエネ」は、マンションや既築の一戸建てに非常に簡単に導入できるのが特長だ。他社HEMSの中には太陽光発電の発電量や、ガス利用量などまで含めて見える化するものもあるが、「フレッツ・ミルエネ」は電力会社から送電される電力の利用状況を見える化するもので、一般的な家庭での節電・節約需要に絞り込んだサービスとなっている。
「元々は、電力だけでなく水道やガスも含めた見える化サービスを検討していたのですが、震災の影響で電力の問題が出たため、まずは電力の見える化だけを切り出してスタートさせたのが始まりです」と語るのは、NTT東日本 ブロードバンドサービス部 アライアンス担当 主査の幡生 祐介氏だ。
2011年7月から2012年1月にかけてトライアルサービスを実施。このトライアルも当初は人数を絞った無料トライアルだったが参加希望者が多数となったため、募集を拡大。有料でのトライアルも含めて2,500ユーザーが参加したという。そのうち92%がサービスへの満足度を「とても良い/良い」としており、節電効果も68%が「効果があった/やや効果があった」と回答しているという。
「このサービスは直接節電をしてくれるわけではありません。あくまでも電力の使用状況を"見える化"することで、何をした時に使用量が上がった、あるいは下がったということに気づいてもらい、次のアクションへとつなげるためのものです。そのため評価を頂いた一方で、見える化で満足してしまい具体的なアクションへとつなげられず節電効果がなかったという方もいるようです」と幡生氏は分析する。
トライアルユーザーからの要望を受けて、地域ごとのランキングや節電目標の設置などモチベーションを保つ工夫を盛り込み、正式サービスとして開始したのが2012年1月25日。そしてSIIによる補助金対象として認定されたのが6月13日だ。
元は取れる! ただし"見える化"だけで満足しては効果無し
「レンタルの場合、月額420円。初期費用は無料キャンペーンも実施しているので、これだけでスタートできます。節電のためにお金を払うなんて、という声もありますが、これはすぐに回収できる金額です」と幡生氏。
総務省による二人以上の世帯の1ヵ月の電気料金は、約9,600円(2011年度の年間平均)程度。50A契約の場合1,365円(東京電力の場合)が固定料金だ。2011年に行われた15%の節電を達成した家庭が1万件以上あったことを考えると、少し気をつければ15%程度の節電は可能と考えてもよいだろう。固定料金を除いた部分の15%といえば約1,200円。毎月しっかりと利用料金は回収できるという計算だ。
「通常、サービスの対価として得られるのは、払った料金に対しての付加価値です。しかしミルエネの場合、お金で直接戻ってくるとも言えます。やりがいがあると思いますよ」と幡生氏は語る。
対象機器によっては、実質消費税分だけでの導入も可能
「数ある認定製品の中で、とにかく手軽に使えるのが特長です。利用条件は、フレッツ光ユーザーであることだけ。特別な知識がない方でも、自分で設置作業が行えます」と幡生氏。多くのユーザーが解説動画を参照して30分程度で作業を完了しているという。
実際の設置作業は、分電盤計測器を家庭の分電盤に取り付けるだけで、新築はもちろん既築の住宅にも対応する。この計測器の取付が非常に簡単で、分電盤のフタを開け、内部にある黒いケーブルと赤いケーブルをそれぞれ挟み込むように、計測器につながるクリップを取り付けるだけだ。被膜を剥がす必要はなく、感電といった心配もない。分電盤カバーの隙間からケーブルを出し、近くに取り付けたフックにかけるか、分電盤上部に両面テープなどで固定すれば基本的な設置作業は完了だが、このほかに分電盤からの計測データを受信する無線親機を設置する必要がある。計測器の電源は乾電池を利用しており、別途電源を取る必要もない。
計測器は数分ごとにデータを取得し、無線親機に送信する。無線親機はブロードバンドルータにLANケーブルで接続されていて、受信したデータを一定間隔でフレッツ光回線を利用してサーバにアップロードする。計測器と無線親機の間は省電力な無線通信であるZigBeeで接続されており、計測器の電池は半年から1年は持つという。
また、分電盤計測器では家庭の電気総量を計測しているが、これとは別に、家電ごとの消費電力を知りたい場合には専用の電源タップを追加して利用する。これは壁のコンセントと機器のプラグの間に挟むようにして使うもので、100V15Aに対応し、最大9個までの設置が可能となっている。この電源タップも、タップにつながれた機器の電力使用量を無線で親機に送信するようになっている。
「電源タップは設定画面上で冷蔵庫やエアコンなど名前を割り振って使えるようになっています。必ずしも計測したい機器の数だけ必要なものではなく、たとえば最初に使用量がほぼ固定だと思われる冷蔵庫やテレビを一定期間計測して消費電力を確認した後、エアコン等の利用状況を順次確認することもできます。簡単につなぎ替えられるタップなので、自由に使える点もポイントです」と幡生氏は言う。
「フレッツ・ミルエネ」の月額利用料金は210円。ユーザー自身が機器をとりつける場合、基本的には無線親機と分電盤計測器のレンタル料が210円かかる。これにフレッツ光やプロバイダの月額利用料金が加わる形だ。電源タップは1個4,200円での買い取りとなる。手軽かつ安価に始められるが、レンタルの場合にはHEMS補助金の対象外となる点に注意。
HEMS補助金の対象となるのは、取り付け工事を依頼し、無線親機と分電盤計測器、電源タップ1つをセットで買い取るタイプ。このパックの費用は2万1,000円から。使用電力などのデータ閲覧端末として「フレッツ・ミルエネ専用端末」を1~2台追加することもでき、この場合の費用は最大で7万3,500円となる。HEMS補助金は最大10万円までの消費税を除く部分が対象となるため、実質、消費税分だけをユーザーが負担すれば導入できることになる。
今後は家庭だけでなくSOHOや中小・中堅企業までを含めて節電・節約に取り組めるような仕組みづくりも検討しているという。目標設定機能や、ランキング機能など、継続的に使ってもらうための工夫や、ユーザーボイスの取り入れにも積極的だ。今後、ECHONET Liteへの対応も予定しており、対応機器が普及すれば利用状況の見える化だけでなく、外出先からの家電コントロールも実現できるだろう。
節電・節約以外の部分へも目を向けている。7月に追加された「電力変動お知らせ機能」は、ユーザーが任意に設定した時間と電力変動の条件によってメールを配信する機能だ。たとえば平日午後に一定以上電力が使われることで子どもの帰宅を確認したり、毎日朝になると電気利用量が増えて夜には減るというリズムを確認することで独居老人の生活の様子をチェックするといったこともできる。
「いろいろな機能を用意し、さまざまな、できるだけ多くの方に利用して欲しいですね」と幡生氏は語る。電気料金値上げや消費税増税を控えた今、家庭の支出を抑えるために、まず電気使用量の"見える化"から取り組んでみてはいかがだろうか。
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