太陽光発電設備の設置コストは急速に低下しつつあり、太陽光発電のオフグリッドアプリケーションが現実的になりつつあります。米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の計算によると、2010年の太陽光発電システムの設置コストは1W当たり7ドル強でした。SolarBuzzの調査結果は、システム価格が1kWh当たり15.50ドルに推移している事を示しています。これは太陽電池、蓄電装置、充電器、インバータを含むシステム全体の価格です。
携帯デバイス、建設現場の標識、遠隔ポンプ所、通信ネットワークまで、オフグリッドアプリケーションの可能性は無限に広がります。システム価格が低下した事により、これまで非現実的だったアプリケーションが実現可能となってきました。
本稿ではパワーエレクトロニクスシステムに焦点を当て、オフグリッド太陽光発電システムを設計する際に留意すべき主な利点とトレードオフについて取り上げます。ここでは、システムレベルの問を題解する簡単な方法を用います。すなわち、最初に最終アプリケーションの要件を把握し、そこからシステム全体を確認し、定義を行い、サイズを決めていきます。
負荷
負荷としてはほぼあらゆるものが可能ですが、オフグリッドアプリケーションにはオフグリッドであるそれなりの理由があります。工事現場の標識や警告灯など、移動可能である事が条件です。そのような場合にはオフグリッドである事が必要です。この他、携帯電話の基地局や遠隔ポンプ所のように遠隔地に設置されるアプリケーションにも使います。
まず、オフグリッドのソーラー駆動ソリューション開発で考慮すべき項目を確認しましょう。図1はシステムブロック図です。エネルギ収支の観点から、種類や経時変化も含めて負荷を把握する事が重要です。
まず負荷の種類と、特殊な要件があればその内容を確認します。定負荷か、可変負荷か。負荷がかかるのは日中か、夜間か。かかり方は間欠的か、常時か。負荷の種類と挙動を把握する事で、システムの実装方法が決まります。例えば、工事現場の警告灯は夜間のみ点滅させる一定幅のパルス負荷です。従って昼間に充電し、夜間稼働させられるサイズのバッテリを実装すれば良いのです。標識もパルス負荷ですが、昼夜を通して稼働します。そのため、昼間稼働させながら夜間動作に必要な分バッテリを充電できる容量のシステムが必要です。ポンプも昼夜を通して動作しますが、負荷は変化します。ポンプの場合は最悪条件に対応できる容量のシステムとするか、最悪条件時に稼働させるバックアップシステムが必要です。例えば雨水ポンプ所の場合、降雨時には太陽光でバッテリを充電できないため、オフグリッドソーラーアプリケーションには不適当です。図2に、上記で検討した負荷の種類を示します。
負荷の大きさと頻度から得られる平均負荷と挙動について把握する事が重要です。負荷と動作条件を把握すれば、蓄電要件は簡単に決まります。
蓄電容量の決定
太陽は毎日昇るため、24時間周期の簡単なエネルギー収支を把握すれば、基本となる蓄電要件を求められます。図3に、動作条件を示します。蓄電容量はこの表の左側を参考にして求めます。
負荷には、警告灯のように把握しやすいものから、ポンプ所のように変動幅が大きいものまであります。可変の負荷を扱う場合、次の2つのケースについて検討すべきです。1つ目は「通常の」動作条件です。全動作の95%がこれに該当します。蓄電部の容量は、日中に充電して夜間に負荷を駆動できるように決めます。2つ目は通常動作の最悪条件です。これは残りの5%が該当します(ポンプは日没時に運転を始め、夜間を通して全負荷で稼働します)。下式を使って非充電期間中の単位時間当たりの最大負荷電力を求めれば、最悪条件の蓄電要件が分かります。
Energy Storage Required = Maximum Hourly Load Power×(24hours - TimeCharging)
では、バッテリが満充電されていない時に上記の条件が発生するとどうなるでしょうか。機能が停止してしまった時(点滅しない、またはポンプが動かない)のコストを考えてみると良いでしょう。ポンプが動作を止めると、そのコストは膨大なものになりかねません。1つの対策は蓄電容量を増やす事です。しかし、さらに上を行く最悪条件は常に存在します。機能停止が許されない、あるいは最大出力が要求されるのは稀である場合、ディーゼル発電機などのバックアップシステムを用意し、常時運転するシステムは通常の動作条件に対応できるだけの容量にしておくのが最善策でしょう。
ここまで図3の左側を基に蓄電要件を考えてきましたが、次は右側を参考にしてソーラーアレイの容量を決定します。
ソーラーアレイの容量決定
負荷の要件が分かれば、ソーラーアレイの容量を決める事ができます。図3から、ソーラーアレイは一定時間で充電を行いつつ平均負荷も出力する必要がある事が分かります。下式はこの関係を表しています。
Output PowerSolar Array = {(Energy Storage Size)/TimeCharging} + Load PowerAverage
蓄電部およびソーラーアレイの容量は、簡単なエネルギー収支から見積もる事ができます。さらに見積もり精度を上げるには、内部/外部要因を把握する必要があります。最も重要な外部要因の1つは設置場所です。特に緯度が重要です。これだけで年間日射量のピーク値と変動が求められます。例えば、太陽との相対位置だけから冬季は日射量が最小に、夏季には最大になる事が分かります。この他、システムへの日射量に負の影響を与える雲の発生や周囲気温、エネルギ変換効率などの外部要因があります。これらの外部要因はアプリケーションと設置場所の両方によって変化します。
さらに、システムアーキテクチャ(特に接続方式)などの内部要因も蓄電部とソーラーアレイの容量決定に影響します。変換効率100%を達成するのは事実上不可能なため、損失を考慮する必要があります。ここまでは、蓄電部およびソーラーアレイの容量が、出力電力を決めると仮定してきました。しかし実際には、出力電力を求めるには、パワーエレクトロニクスを考慮する事が必要です。
パワーエレクトロニクストポロジ
図1のシステムブロック図はエネルギー収支を理解する際には便利ですが、部品の容量決定に影響する内部要因を検討するには詳細が必要です。図4は詳細なシステム実装図です。この図から、パワーエレクトロニクスストラテジに影響を及ぼす課題が見えてきます。
マイコンベースのパワーストラテジを使うと、大きな柔軟性が得られます。標準のリファレンス ザインを多様なアプリケーションで使える上、アプリケーション別のニーズにも対応でき、先進の機能も実装できます。基本となる電力変換をサポートするだけでなく、主要部品の選択における柔軟性、変更への対応、幅広い動作条件に対して最適化できます。専用の制御ICによるスタンドアロンパワーコンバータではこれを実現する事はできません。
この実装における焦点は負荷です。負荷の性質はどのようなものか、負荷の制御をどのように行うかが重要です。必要なのは電圧か電流か。電圧/電流の設定点にはどの程度の精度が必要か。負荷制御回路は、シンプルなリレー回路から3相インバータのように複雑なものまであります。いずれの場合も、充電器の機能(パワーエレクトロニクス)は必要です。この機能は太陽光を使って蓄電装置を充電します。システムによっては、最大電力点追従(MPPT)機能を実装できます。
まず、電源レールアーキテクチャをコモン型にするか、分散型にするかを決めます。図5に違いを示しますが、どちらが適当かは負荷の挙動によって決まります。その負荷に定電圧が必要であれば、図5(a)のコモンレールが最良の選択肢でしょう。この場合、負荷コントローラはシンプルなリレーかソリッドステート スイッチです。ソーラーDC/DCがコモンレールを電圧設定点に維持します。バッテリ充電器はバスから電力を取り出して蓄電装置を充電します。この方法の長所であり短所でもあるのが電力変換段です。電力コンバータの平均効率が85%である事を考慮すると、変換ごとの損失は15%です。ソーラーDC/DCが負荷に対応できるのであれば、電力変換は1段のみです。しかし、バッテリを充電するには2段の電力変換が必要です(ソーラーDC/DC→コモンレール→双方向DC/DC)。さらに、負荷をサポートする変換(双方向DC/DC→コモンレール)が必要です。
ソーラーDC/DCが動作しない間(夜間)のみ負荷を使う場合も、コモンレールを使います。この場合、ソーラーDC/DCを省き、蓄電装置上の双方向DC/DCを使ってソーラーアレイからバッテリを充電する事ができます。または、代替手段を使って負荷に電力を供給する事もできます。この場合、電力変換は2段で済みます(ソーラーDC/DC→双方向DC/DC、双方向DC/DC→負荷)。
図5(b)の分散型アーキテクチャはより柔軟で、各種負荷要件に対応できます。この場合、ソーラーDC/DCで蓄電レール(充電)に対応させ、DC/DCコンバータで負荷要件に対応させる事ができます。この方法の短所は、電力変換が常に2段である事です。しかし、ソーラーアレイと負荷が同時に動作する場合、総合的にはこのソリューションの方が優れています。
簡単な例
次にシンプルなアプリケーションの例を見てみましょう。工事現場や防波堤でよく見られる点滅灯を考えてみましょう。このような点滅灯は夜間のみ動作し、バッテリはそれ以外の時間で充電されます。この場合にはコモンバスアーキテクチャが使えます。また、充電と点滅が同時に行われる事はないので、ソーラーDC/DC、双方向DC/DC、負荷制御を単一の双方向コンバータに組み込めば、トポロジをさらに簡略化できます。この回路設計を図6に示します。
この回路設計ではMicrochip Technologyの「PIC16F690」を1つとアナログPWMコントローラ「MCP1630」を2つ使って、双方向フライバックコンバータを駆動しています。日中は太陽光でバッテリを充電します。夜になると、プログラムされた点滅パターンに従ってコンバータから電力をLEDライトに供給します。表1に条件と計算結果を示します。
まとめ
ソーラー設置コストが下がるにつれて、分散型アプリケーションは今後も増え続けるでしょう。最終アプリケーションの要件は、システムトポロジを決定し、性能上の重要なトレードオフを浮き彫りにします。マイコンベースの電力変換アーキテクチャを使えば優れた柔軟性が得られます。これにより、多様な最終アプリケーションに対応し、継続する太陽光発電技術の進化にも対応できます。この柔軟性は、今日行う設計が将来も有効であり続ける事を意味します。
著者紹介
Stephen Stella
Product Line Marketing Manager
Analog & Interface Products Division
Microchip Technology