海洋研究開発機構(JAMSTEC)は8月20日、東北地方太平洋沖地震の震源域の地下構造データについて詳細な解析を行った結果、地震の発生源となった断層(地震断層)と地震履歴を残した変形構造が明らかにされ、東北地方太平洋沖地震では、地震断層の破壊がいくつもの副次的な断層を作りながら海側へ進み、海底に到達して止まったことが解明されたと発表した。これは、海溝型巨大地震の地震断層とその変形構造を突き止めた世界で初めての結果だという。

成果は、JAMSTEC 地球内部ダイナミクス領域 海洋プレート活動研究プログラムの小平秀一プログラムディレクターらの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間8月19日付けで英国科学誌「Nature Geoscience」に掲載された。

JAMSTECは、文部科学省の科学研究費補助金(特別研究促進費)による「2011年東北地方太平洋沖地震に関する総合調査」の一環として、2011年3月15日以降、東北地方太平洋沖地震の震源域で反射法地震探査、音響測深機を用いた地下構造、海底地形の調査などを継続的に実施し、その結果については随時、速報的に報告している(2011年4月28日、2011年12月2日)。

そしてこの数次にわたる調査・検討により、宮城沖では陸側斜面一帯が陸地側から海溝軸方向に50m水平移動していること、海溝軸近傍では大きな地形変化が生じていることを明らかにしてきた。

この海底地形の変化がどのようにして生じたのかについて解明するために、当該海域の海底下の地下構造についても、地震発生後と発生前の1999年に得たデータとの比較を進めてきたが、地震断層そのものを特定するにはこれまでのところ至っていなかったのである。

そこでJAMSTECでは、深海調査研究船「かいれい」の「反射法地震探査システム」を用いて1999年に調査した海域(画像1)において、東北地方太平洋沖地震発生後に地下構造データを取得。地震発生前後の比較から、今回の地震の断層に沿った変動が海溝軸付近の地下構造を変化させたことを見出した。

画像1。調査海域図。黄色線が「かいれい」調査測線の位置を、黄色の星印が東北地方太平洋沖地震の本震の震央をそれぞれ示す

その後、2011年10月にその海域において海溝軸付近の詳細な地下構造を得るため、新たに導入した「高分解能反射法探査システム」を海洋調査船「かいよう」に搭載して調査を実施した。

その結果、太平洋プレートと北米プレートの境界付近をすべり面とした断層が海溝軸に到達し、断層に沿った北米プレートの東南東への運動によって、従来連続していた海溝軸堆積層が海側に向かってめくれたように分断されていることが明らかになった(画像2)。

東北地方太平洋沖地震の地震発生前後の地下構造データの比較。左が画像2で1999年の調査で得た地下構造データ。右が画像3で地震発生後の調査で得た地下構造データ。地震発生後、海溝の陸側にあった高まりが海溝軸側に移動し、海溝の海底が盛り上がっている。北米プレート先端部の堆積層にも、変形した構造が見られる(下図 赤丸の領域)。点線部は、新たに導入した高分解能反射法探査システムにより調査した領域(画像4・5)

画像3の点線部における高解像度の地下構造データ。左の画像4は地下構造データ。右の画像5は地下構造データの解釈図(点線部:地震断層、薄い点線部:地震断層の可能性がある部分)。太平洋プレートと北米プレートの境界付近をすべり面とした断層が海溝軸に到達しており、従来連続していた堆積層が海側に向かってめくれたように分断されている様子が見て取れる。これは断層に沿って北米プレートが東南東(画像の矢印の方向)へ動き、堆積層に圧縮の力が加わった時にできたと考えられる

今回の成果から、巨大な津波を発生させる海溝軸まで及ぶ断層のズレは、海溝軸付近の地下構造にその変動の様子を記録していることが示され、海溝軸付近の詳細な地下構造探査から今回の地震と類似の地震の発生領域を推定できることが示唆された。

今後JAMSTECでは、日本海溝に沿って広範囲に地下構造及び海底地形の調査を実施し、海溝軸までの断層のズレに至った巨大地震の発生領域を同定すると共に、変動域の堆積物等を採取・解析して、変動の履歴を明らかにし、大規模な津波を発生させた地震の空間的な広がりと繰り返し周期を明らかにしていく予定としている。