東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)の研究者を含む「スローン・デジタル・スカイ・サーベイIII(SDSS-III)」研究グループは8月13日、これまでで最大の3次元宇宙地図となる「データリリース9(DR9)」を公開したことを発表した。研究の詳細な内容は、7月30日付けで「Astrophysical Journal Supplement Series」に掲載済みだ。
昨年はじめ、SDSS-IIIは過去最大の宇宙カラーイメージを公開していた。今回、このイメージを3次元の地図として拡張することを開始し、DR9では、6年計画で完成させる予定の宇宙地図の最初の1/3が利用可能になった形だ。
DR9は2001年に始まった一連の公開データの最新版で、最終的に60億光年彼方までの150万個の巨大な銀河や120億光年彼方までの16万個のクエーサーの宇宙空間での場所を測定する「SDSS-III バリオン振動分光観測(Baryon Oscillation Spectroscopic Survey:BOSS)」の最新データも含められている。
DR9を使えば、ユーザーは過去60億年の宇宙の歴史をさかのぼることが可能だ。その歴史を知ることで、宇宙のどれくらいの部分が暗黒物質(ダークマター)や、さらに謎の多い宇宙の膨張を加速させてしまう力である暗黒エネルギー(ダークエネルギー)で占められているのかをさらに正確に知ることができるようになる。
また、宇宙が現在の半分の年齢だった頃の54万個の銀河の分光データも持っている。分光データとは、銀河からの光をさまざまな波長で測定したもので、これを用いて宇宙地図の3次元情報である銀河までの距離を測定し、これまで観測されたことのない詳細な宇宙の構造を知ることができるというわけだ。
クエーサーは遠方宇宙で最も明るい天体で、その観測によって宇宙の3次元地図をより詳細にすることができることから、宇宙における物質の分布を知るための新たな手段としても用いられている。よって、クエーサーを分光観測することにより、銀河間のガスの複雑な分布の様子や、クエーサーと地球との間の暗黒物質の分布などを明らかにできるという。
さらに、DR9の新たな観測データは、遠方の宇宙だけではなく、我々の住んでいる天の川銀河についての理解を深めるのにも役立つとしている。DR9では、天の川銀河の50万個以上の星についての化学組成が見積もられた。このデータを用いることで、天の川銀河の歴史を知ることができ、どのように形作られ、今のような姿になったのかを知るための助けになるというわけだ。
なお、今回公開された新たな画像と分光データだけでも宇宙に関する新たな発見につながるものと考えられているが、SDSS-IIIはまだ6年の観測計画の半ばにさしかかったところであり、2014年の観測完了時には、今回の3倍の観測データが公開される予定だ。
なお、SDSS-IIIの共同研究者でもあるカブリIPMUの村山斉機構長は、SDSS-IIIのバリオン振動分光観測は、カブリIPMUが観測をこれから始める「すみれ計画」において、暗黒エネルギーの進化を宇宙初期(z~2、約100億年前)から現在まで調べるのに重要な基礎データとなるとコメント。なお、すみれ計画の第一期の装置「Hyper Suprime Cam」は2012年8月にファーストライトを迎える予定で、SDSS-IIIの経験がこれから役に立っていくはず、とも村山機構長は語っている。
ちなみに、DR9の全観測データは公式Webサイトから利用することが可能だ。最新のデータは天文学者だけが利用できるのではなく、学生や教師など、広く一般にも公開されている。
そのほか、DR9のデータを使って天文学やそのほかの科学、工学、数学を教えるのに役立つ教師のための授業計画も公開中のほか、インターネットで接続されたボランティアが最先端の天文研究に貢献できる市民科学プロジェクト「Galaxy Zoo」の最新版も提供されている。
下の動画は、DR9の観測データを用いて作成したビデオだ。アニメーション内の銀河はSDSSによって測定された場所に実際の銀河の形に合致した銀河のテンプレート画像を配置したものである。
銀河はクラスターやフィラメントと呼ばれる場所に局在し、それらの間に広がる空間がボイドだ。SDSS-IIIではこのような構造を詳細に調べ、宇宙の暗黒エネルギーの性質や暗黒物質の分布を明らかにするとしている。