東北大学は8月2日、ヤマサ醤油、熊本大学、京都大学、横浜薬科大学と共同で進めてきた新規のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症治療薬の研究・開発が、米国Whitehouse Station, N.J.のMerck & Co.,Inc.への独占的ライセンスの供与に至り、今後、本格的な臨床開発へ向けた段階と進むことになったことを発表した。
成果は、東北大学病院内科・総合感染症科の児玉栄一助教、熊本大 エイズ学研究センターの満屋裕明教授、同・岡田誠治教授、京大 ウイルス研究所の松岡雅雄教授、横浜薬科大の大類洋教授らの共同研究グループによるもの。
HIVは免疫の働きに重要なリンパ球である「CD4陽性T細胞」に感染して免疫力を低下させ、さまざまな感染症に対する抵抗力を著しく低下させることで最終的にエイズを引き起こす。
これまで複数の抗HIV薬を用いた多剤併用療法によって、感染者・発症者の臨床症状は軽減され、今や感染者の寿命は非感染者の寿命に近くなった。さらに、治療によって「二次感染」も阻止できることが明らかになっている。
一方で、長期間にわたる治療中に感染者・発症者の中には、抗HIV剤に対して耐性を獲得した「薬剤耐性HIV」と呼ばれる変異株が出現して治療効果が得られなくなることが問題となっているところだ。
研究グループらが開発を進めて来た候補薬、「4'-Ethynyl-2-fluoro-2'-deoxyadenosine(略称EFdA)」は、高度の耐性を獲得したHIV変異株にも抗ウイルス活性を発揮し、それらの増殖を極めて強力に阻止する力を持つ。EFdAは、マウスのみならずサルに投与しても副作用なくHIVの増殖を強力に阻止してCD4陽性T細胞を感染から効果的に守ることが示されている。
今回、ヤマサ醤油がこのEFdAの臨床開発権の独占的ライセンスを米Merckに供与したことで、今後、EFdAは臨床開発へ向けた次の開発段階と進むことになる。