東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センターを中心とする研究グループは、世界最高地点(標高5,640m)にある天文台、東京大学アタカマ天文台1m望遠鏡(通称miniTAO:ミニタオ)のアタカマ近赤外線カメラ(ANIR:アニール)を用いて、形成途上にある銀河(爆発的星形成銀河)の観測を行い、その形成過程が明確に2種類に分かれることを発見したと発表した。同成果は、同センターの吉井讓 教授、本原顕太郎 准教授、舘内謙 博士課程1年らによるもので、「Publication of the Korean Astronomical Society」に掲載された。
爆発的星形成銀河は、1年間に数10~数100個分の太陽に相当する大量の星を生み出している形成途上の銀河であり、その活発な星形成活動をエネルギー源として赤外線で明るく輝き、その放射エネルギーは太陽の1,000億倍以上にもおよんでいる。しかし、なぜ活発な星形成が起きているのか、これら銀河がどのように進化して最終的にどのような銀河になるのかについては、数多くの超新星爆発が起こった際に放出される大量の塵によって覆い隠されてしまい、従来の紫外線や可視光線による観測手法では、塵に吸収されてしまい内部まで見通すことができず、よく分かっていなかった。
しかし、こうした塵に対しても、赤外線であるパッシェンα(Paα輝線)は強い透過力を持っているため、Paαを観測することで、塵の向こう側に隠されていた星形成活動を直接かつ詳細に捉えることができるようになることが期待されていた。Paαは、宇宙に数多く存在する中世水素原子が太陽の10倍以上の重さの若い星が発する紫外線により電子と陽子に分離され、再び結合して水素原子に戻る際に放射される特有波長の光(水素輝線)の1種で、赤外線波長にある水素輝線の中でも特に強いものとなっている(波長1.8751μm)。ただし、Paαは、地球大気中の水蒸気により、強く吸収されてしまうため、これまで地上の望遠鏡による観測はほとんど不可能と考えられてきた。
図2 地球大気の赤外線波長での透過率。青線がminiTAOがあるチャナントール山頂、黒線は他の南米の天体観測所の典型的な値で、赤い線が水素Paα輝線の波長。今回の観測では、このPaαが宇宙膨張によりドップラーシフトしてより長い波長にずれた爆発的星形成銀河を、ピンクで塗られた波長域を通す狭大気フィルタ(N191フィルタ)を用いて観測した(出所:東京大学) |
研究グループは、miniTAOに搭載された近赤外線カメラANIRを用いて、爆発的星形成銀河のPaα輝線による撮像観測を2009年から行ってきた。miniTAO望遠鏡は、標高 5,640mのチリ・チャナントール山の山頂にあり、この標高と乾燥した気候のおかげで、従来、地上からは不可能と思われていたPaα輝線観測を実現した。
これまで研究グループでは合わせて38天体の爆発的星形成銀河のPaα輝線観測に成功しており、これは銀河のPaα撮像サーベイとしては最大規模のものになるという。
これらの爆発的星形成銀河の星形成活動がどこで起こっているのかを銀河内の星の分布と合わせて調べてみた結果、銀河の中心部分に集中しているものと、銀河全体に広がって分布しているものの2種類に明確に分類できることが明らかとなった。
図5 今回観測された銀河の形状の中心集中度を測定した結果。横軸が古い星の分布の中心集中度、縦軸が新たに生まれた星(星形成領域)の分布の中心集中度。一般に、中心集中度が高いほど銀河の形状は楕円銀河的になる(出所:東京大学) |
銀河は様々な姿・形をしているが、そのほとんどはハッブル系列と呼ばれる形態分類法で大きく楕円銀河と渦巻銀河の2つに分類する事ができる。しかし、この形態がいつ、どのようにしてできたのかはよく分かっていなかった。今回の発見は、銀河の形成段階で星形成を行なっている領域自体がこの2つに明確に分離することを示したものであり、銀河の形がその形成段階からわかれていた可能性を示唆するものだという。
これは、銀河の形態がどのような過程を経てできるのかを解き明かす手がかりとなると研究グループでは説明している。現在の銀河進化の枠組みの中では、楕円銀河は遥か昔の衝突合体によって一気に星を作ったあとで楕円銀河の形状に落ち着き、その後は星形成を殆ど行わないと考えられてきたが、今回の観測では楕円銀河の中心でいまだ爆発的な星形成が行われ、その星質量を増やしつつあるものがあることが示されており、楕円銀河の質量形成に、従来考えられてこなかった経路があることを示唆するものであるという。そのため研究グループでは、今後もさらに多くの爆発的星形成銀河の観測を行い、その性質と成長過程を詳細に明らかにしてゆく予定だとしている。