科学技術振興機構(JST)と東京大学(東大)は、液体の流れを精度よくコントロールし、ナノスケールの繊維状材料(ナノファイバ)の隊列(並ぶ方向)を制御する方法を開発したことを発表した。同成果はJST戦略的創造研究推進事業ERATO「竹内バイオ融合プロジェクト」のリーダーである東大生産技術研究所の竹内昌治 准教授とJST機能創発グループの桐谷乃輔 グループリーダーらの研究グループによるもので、独化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に近日中に公開される予定。

血管や筋肉をはじめとする生体の組織はヒモの形状をしており、ヒモは絡めて太くしたり、編んでシートにしたりと材料としての使い勝手が良いことから、生体組織を組み立てる足場としての利用が期待されており、同研究グループでも生体組織の人工構築を目指してナノファイバを束ねたヒモの実現に向けた研究を行ってきた。

ヒモを作るための材料として用いられるナノファイバは、10-9スケールの直径を持つ極小材料の総称で、例えば、その1つであるカーボンナノチューブ(CNT)は、軽くて丈夫であるために、宇宙エレベータを作る素材としての利用が期待されているほか、身体の中にあるコラーゲンなどの生体ナノファイバは、血管や筋肉などの組織を支える土台としても機能している。

ナノファイバを束ねて、軽くて強い骨組みを作ったり、生体組織を人工的に作ったりするには、ナノスケールで繊維の並び方をコントロールすることが必要となる。ナノファイバは、その細長い形の縦と横で性質が大きく変わるため、その並び方がヒモの特性に影響を及ぼすが、これまでの技術では、ナノファイバが細長いために、束ねると隙間を埋めるように一方向に並んでしまうことが問題となっており、その方向を変えて並べる機構を実現する必要があった。

今回の研究では、マイクロ流体デバイスを利用して、2種類の液体(ナノファイバが分散した水溶液と水)をデバイス中に流すシステムを構築。ナノファイバの分散液を内側に、水を外側に流すと、ナノファイバの分散液の流れる速度が水より遅い場合には、ナノファイバは、流れに沿って並ぶことが判明した。一方で逆の条件では、ナノファイバは向きを変えて、流れと垂直に並ぶことが確認された。このことから、マイクロ流体デバイス内の液体の流れをコントロールすることで、簡単にナノファイバの方向を制御することができることが確認された。

マイクロ流体デバイスを用いたナノファイバの配列制御の模式図

また、水の代わりに、ナノファイバを固める材料(カルシウムイオン)を溶かした水溶液を流すことで、そのままナノファイバの隊列を固めてヒモとして取り出せることも判明。実際にCNTの方向を制御して固めて取り出すことに成功し、電気的な性質や丈夫さがCNTの並び方によって変えられることも示されたほか、同方法では、数メートルの長さのヒモをわずか数分で作れることも確認されており、大量にヒモを製造することも可能になるという。

流れの中でのナノファイバの様子。ナノファイバが流れに沿って並んでいる様子(上段)と流れと垂直に並んでいる様子(下段)。左から明視野画像、偏光顕微鏡画像、イラスト。偏光顕微鏡画像はナノファイバの配列を反映している

従来、マイクロ流体デバイス中でのナノファイバの集積化については、流れの方向に並ぶという概念が一般的であった。ナノファイバは、ファイバの長軸方向と短軸方向では、性質が異なるため、その並び方を変えることで、材料としての性質を多様に調整することが期待されてきたが、単一の流れの中では、ファイバ状の構造は流れの方向を向いてしまい、その方向を制御することは容易ではなかった。今回の方法は、内側(コア)と外側(シェル)の同軸の2つの流れを用いて、コアとシェルの流れの大小関係を制御することで、ナノファイバの方向を変えるものであり、原理的にあらゆる繊維状の材料に適用することが可能たと研究グループでは説明している。

今回の研究の手法で作成したCNTを含むヒモを巻きつけた様子。全長はおよそ4mに達するという

なお、同研究では、細胞を細胞ブロックとして扱い、人工的に立体組織を構築することを目指しており、もし細胞ブロックに使う足場(ナノ繊維で作られるゲル)がナノレベルで制御することができれば、細胞の立体構造を設計しやすくなると考えられており、研究グループでは今回の成果を活用することで、今後の細胞ブロック作りが進展するものとの期待を示している。

同じナノファイバ(導電性高分子とバナジウムオキサイドを複合化したナノファイバ)から作成したヒモ。見た目はaとbのどちらも緑色だが、偏光顕微鏡を通すと中身が違うことが確認できる(cとd)。aとcは同じヒモでナノファイバが同じ方向を向いている。一方bとdではナノファイバがヒモの方向とは垂直に向いている。ヒモの長軸方向への電気伝導度の異方性は、a/cでは300、b/dでは11で、電気の流れ方の特性が異なっている