ポーラ美術館は、建物のフロアマップを虫の発生箇所で色分けする「むしココ!マップ」を作成するなどして虫害管理を徹底した結果、文化財害虫の侵入を館全体で約60%低減することに成功した。同美術館によれば、この技術はクリーンルームを使用するような他業界へも展開可能としている。
同美術館は伊豆箱根富士国立公園内という自然豊かな環境にあるため、昆虫が美術品に与える害に対する懸念が大きい中、9,500点という日本最大級のコレクションを保存していく必要があるという。この状況を受け、2004年より美術作品の虫害低減と自然環境における生物多様性保全の両立を目指しており、IPM(Integrated Pest Control Manegement、総合的病害虫管理)に基づく虫害管理を、竹中工務店の協力を得て継続的に行ってきた。
各種の取り組みの中でも、「むしココ!マップ」を適用した場所では文化財害虫の侵入を約90%低減し、クリーンルームを有する施設で応用できるほどの高いレベルの虫害対策を実現したとのことだ。
同システムは、図面上にある複数の同じ数のデータを線(等値線)で結び、属性、分布状態を感覚的にわかりやすくした「コンター図」を利用したもの。コンター図を作成するには格子状に分布するデータを数値化する必要があるため、対象のフロアに粘着トラップを格子状に設置した。
同マップでは、直接的な加害の危険性が高い虫の種類を限定せずに、外部からの侵入および内部で発生した全ての虫について適切なモニタリングを行っている。このことにより、虫の侵入経路を高い精度で測定できるほか、虫の発生状況や種類に応じて排水、下水のトラブルや、扉の開閉状況などの建物内外の環境を把握し、虫害リスクを予測することができる。
同館は虫を殺さずに美術品への害を減らすことを目的としているため、薬剤での殺虫や、虫の発生を誘発する危険性のあるフェロモントラップを使用していない。虫の発生しにくい環境を作り、発生してしまった際は最低限の対策で済むような管理を進めており、同マップはその取り組みの一環と言える。