今日、街には色が溢れています。街並みはナトリウム イオンの街路灯のオレンジ色の輝きに溢れ、車のヘッドライトとテールライトは高速道路を光の川に変え、ビジネス街の空には超高層ビルの微妙な色合いが輪郭を描いています。ロックコンサートでは照明を使って驚くような舞台を演出しています。建物には目を惹くために着色光が使われ、プールにさえ雰囲気を盛り上げるために色の変わるライトが使われています。
照明はいたるところにあり、様々な色を表現できる照明器具はますます一般的となっています。光の色を変えられる照明をより効率的に、使いやすく、低コストにするため先端を行くのがLEDです。LEDを使うと高効率、色混合用の調光機能、長寿命を合わせ持つ設計が実現できます。デジタルシグナルコントローラ(DSC)を使うとLEDのデジタル制御が可能となり、照明器具にインテリジェンスと通信機能を付加できます。これらを使うと、LED照明に新しい魅力的な機能を実装できます。
皆さんは表面実装またはスルーホール型のLEDついてはよくご存じだと思います。このようなLEDを使うのに必要なのは、電圧源と電流制限抵抗だけです。これをマイコンの汎用I/Oピンに接続すれば、それだけでLEDを点滅させられます。ところが、順方向電流が350mAを超える高輝度、高電流LEDを10個まとめて1つの直列接続にするとなると、そう単純にはいきません。
高輝度LEDの課題は、輝度と色の維持に必要な定電流を、いかに効率よく維持するかです。図1に示すように、LEDの光束は順方向電流と比例関係にあります。この事から、色と光の出力を一定に維持するにはLEDの順方向電流(IF)を一定に保つ事が必要です。LEDと直列接続した簡単な抵抗器の場合、順方向電流は下式で求められます。
IF=(VSource-VF)/R
ソース電圧(VSource)が異なると順方向電流(IF)も異なり、結果としてLEDの発光量も異なります。従って、順方向電流を制御する電源によってLEDを駆動する必要があります。一般的にダイオードは、順方向電流が一定でも、温度が上昇すると順方向電圧(VF)も上昇します。図2に示すように、LEDの順方向電圧の変化に合わせて順方向電流を適切に調整しないと、順方向電流も変化します。ここでも、LED順方向電圧でなく順方向電流を適切に調整する事が必要です。
次に課題となるのは発熱です。高出力LEDは熱くなります。過度な発熱はLEDの寿命を縮め、早期故障の原因にもなります。順方向電流を制御すれば、設計者は目標順方向電流と推定順方向電圧に基づいて、ヒートシンクの要件を求める事ができます。温度センサを使って過熱しないように監視する事もできます。この他にも高輝度LEDには対応しなければならない課題があります。しかしDSCを使うと、ソフトウェアによる制御でそれらの課題に対処できます。
LEDは、瞬時に光出力を変化させる事ができます。これにより色を素早く変える事ができるため、カラー照明器具への応用に最適です。赤、緑、青のLEDを直列に接続する、または複数のLEDストリングをつなぎ合わせて、それぞれのLEDの輝度を調整し、様々な色を作り出す事ができます。この場合、各LEDの調光が設計上の課題となります。輝度は順方向電流で決まるため、単に順方向電流を増減すれば良いように思えます。しかし、これでは問題が生じます。順方向電流が変化するとLEDの発光色も変化してしまうのです。色を正確に制御する場合、これは望ましくありません。そこで、順方向電流を直接変化させる代わりにパルス変調(PWM)すれば、発光色を変えずに輝度を変化させられます。この手法を図3に示します。赤い破線は平均電流を示し、これが知覚輝度となります。輝度は下がってもLEDの順方向電流は変化していないため、発光色は変化しません。
デジタル制御を使えば、パルス変調電流による調光は簡単です。Microchip TechnologyのDSCは、LEDの電力段を制御するPWM信号を生成できる高性能PWMモジュールを搭載しています。PIC MCUおよびdsPIC DSCのPWMモジュールは、PWM出力を素早く正確に遮断できるオーバーライド入力を備えており、LEDへ流れる電流を制御し、調光します。調光量は消灯(ゼロ)から最大輝度(100%)の間で正規化します。LEDを輝度50%に設定するには、カウンタに0から255までカウントアップさせ、128に達した時点でPWMオーバーライドをトリガします。これによりPWM出力が遮断され、LEDへの電流が遮断されます。カウンタが最大値である255に達すると0にリセットされ、PWMが再び有効になります。このサイクルを繰り返し、図4に示すようにLEDの調光に必要なパルス変調電流を生成します。この際、調光周波数を人間の目がちらつきと知覚できない速さにします。通常、400Hzを超えていれば十分です。
前述したように、高輝度LEDの場合は順方向電流を制御する必要があるため、電源はPWM制御である事が必要です。降圧型および昇圧型スイッチングモード電源(SMPS)トポロジは、両方ともLED照明によく使われます。両トポロジともLEDの電流をPWMで制御します。
負荷の順方向電圧が入力電圧より小さい場合、降圧型トポロジを使います。図5に、代表的な降圧型トポロジを示します。ここでは、PWMがスイッチ(Q)を制御します。電流検出抵抗器(Rsns)の電圧がスイッチ(Q)が閉じている時のLEDの順方向電流に対応します。抵抗(Rsns)の電圧をDSCのコンパレータに供給します。コンパレータは、この電圧とLEDが必要とする順方向電流に比例する内部基準値(設定可能)を比較します。検出した電圧が内部参照値より大きい場合、コンパレータはPWMの開放スイッチ(Q)を開放し、インダクタ(L)は蓄積電流をダイオード(D)とLEDに放電します。次のPWM期間が始まるとスイッチ(Q)が閉じ、サイクルが再開します。このようにDSCの特長を活かす事で、CPUに負荷をかけずにLEDの順方向電流をPWMで制御できます。
昇圧型トポロジは負荷電圧がソース電圧より大きい場合に使います。図6に、代表的な昇圧型LED制御トポロジを示します。降圧型トポロジの場合と同様、PWMがスイッチ(Q)を制御し、電流検出抵抗(Rsns)で順方向電流を監視します。DSCのADCモジュールが電流検出抵抗の電圧をサンプリングします。これはLEDの順方向電流に対応します。この電圧値をDSCのソフトウェアで実行しているPI制御ループに入力します。PIループは、ADCの読み値とLEDが必要とする電流に対応するソフトウェア上の参照値を使って、スイッチ(Q)のデューティサイクルを適切に調整します。ここでDSCを使う利点は、PI制御ループをソフトウェアに実装しているため、他の制御ループ手法も使えるという事です。また、PI制御ループはCPU時間をほとんど使わないため、DSCは複数系統のLEDストリングを制御しても他の処理を行う余裕があります。
その他の特長に、システムに通信機能を追加できる事があります。DSCは、LED照明器具をインテリジェントに制御しながら通信プロトコルを実装できる処理能力を備えています。そのため、通信制御装置を別途用意する必要がありません。一般的な照明制御プロトコルに「DMX512」があります。この規格では、1つのマスタから複数のスレーブへ片方向通信を行い、個々の照明器具にコマンドを送信します。DMX512は1パケット当たり512バイトのデータを伝送し、個々の装置またはノードに対して個別にアドレスできます。DSCの優れた処理能力を使うと、バックグラウンドでDMX512などの通信を実行しながら、昇圧型コンバータの高速制御ループ(例:PI制御)を実行できます。通信機能をソフトウェアで実装しているため、1つのプロトコルに限定しません。設計要件に応じた通信方法を実装できます。
あらゆる新技術の例にもれず、デジタル制御も習熟が必要です。デジタル制御の習熟を容易にするため、多くの半導体メーカーはデジタル制御LED照明キットとリファレンスデザインを提供しています。また、無償でソースコードとハードウェアの資料も提供しています。LEDの駆動回路は多様であるため、入れ変え可能な電力段を提供しているメーカーもあります。例えばMicrochipのLED照明開発キット(DM330014)では、LEDドライバ段がドータカード上にあるため、ボードを変えずに異なるドライバ段を試す事ができます。多くの開発ツールとアプリケーションノートが使えるため、デジタル制御は容易に習熟できます。
LEDは高効率で瞬時に調光できる事から色混合アプリケーションに最適であり、人気が高まり続けています。市場における競争力を向上させるには、照明器具により多くの機能を付加する事が必要です。今後の照明器具設計においては、インテリジェントな制御と通信機能が2つの重要なカギとなります。DSCによるデジタル制御は、照明器具の設計を1つ上のレベルに引き上げる事ができます。
著者紹介
Charlie Ice
Product Marketing Manager
High-Performance Microcontroller Division
Microchip Technology