新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や北海道大学、国立がん研究センター東病院、日立製作所などの研究チームは、体内でのがんの位置を正確に把握し、ピンポイントでエックス線の照射が可能な高精度エックス線治療システムの試作機を完成させた、と発表した。

がんは直径が1センチ以下の小さなものであれば、放射線治療により90%以上が有効に治療できる。しかしエックス線照射時には、がん病巣は呼吸などの体の動きによって、一定の位置に保たれないため、がん病巣が動く全ての範囲に照射する必要があり、周辺の正常領域に影響のない治療が困難だった。

研究チームは、治療システムのうち、マイクロ波を発生させる「マグネトロン」を高出力化し、マイクロ波によって電子を加速し、金属に当ててエックス線を発生させる小型加速器の加速効率を高めることで、現在広くがんのエックス線治療に用いられている「ガントリ型エックス線治療装置」の加速器の約2倍のエックス線強度が得られた。このエックス線の高強度化により、エックス線ビームの照射野を従来の約60%となる直径3ミリメートル程度まで絞り込むことが可能になった。さらに装置の大きさも全長約60センチメートルと従来の装置の半分に小型化し、今まで実現できなかった、立体角360°に近い方向からの照射が可能になったという。

また装置には、体内のがんの位置を追跡する高精度な動体追跡装置が組み込まれている。北海道大学の白土博樹教授らが開発した装置で、がんの近傍に直径約2ミリメートルの金の粒を刺入し、その金をマーカーにがんの位置をエックス線透視装置によって追跡する。体内で複雑に動く臓器の微小ながんもリアルタイムに追跡が可能だ。

これらの一連のシステムにより、エックス線量を極度に集中化し、あらゆる方向から照射することで、体内深くに存在するがんを、他の正常な臓器に影響を及ぼすことなく治療できるようになる。さらに一回の照射で、大量のエックス線をがんに集中照射できるため、従来の治療に比べて患者への負担が少なく、早期の社会復帰が可能になるという。

これらの研究は、NEDOの「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発」プロジェクトの一環で行われている。2013年度までに今回の治療システムの統合を終了し、その後、動作確認評価を実施し、薬事申請に向けた準備を行う予定だ。

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