健康やエコ志向の高まり、あるいは震災時の"足"として見直されたこともあり、自転車の利用が増加しているという。一方で、80~90年代頃には駅前などの違法駐輪が問題となったが、最近ではこのような点もだいぶ改善されてきている。今回は、自転車駐輪場の現状やその実態を探った。
システム開発会社が運営する駐輪場ビジネス
日本コンピュータ・ダイナミクス (NCD)は1967年というソフトウェア創世記に、独立系システム会社として誕生。その後、ITコンサルティングやテクニカルサポート、システム構築・導入などを中心に事業を展開してきた。老舗のシステム会社だが、NCDにはもうひとつの顔がある。それは、"電磁ロック式の駐輪場設置台数が国内実績ナンバー1"という顔だ。
電磁ロック式駐輪場とは、自転車1台ごとにロックがかかるタイプの駐輪場だ。最近では駅近の商業施設などを中心に見かけることが多くなったタイプで、時間貸しで有料の場合も多い。自動車のコインパーキングと同じで、利用時間ごとにかかった料金を精算機で支払うとイメージすればわかりやすいだろう。NCDは、この電磁ロック式駐輪場を含め全国1000カ所、駐輪台数で28万台以上の規模で展開している。
「駐輪場事業を開始したのは1999年です。当時は放置自転車が社会問題化し、対応が悪いと指摘された自治体は駐輪場を慌てて増やすという繰り返しでした。しかし、当時の大学ノートに手書きで管理するような仕組みでは限界があります。そこで、システム化できないかと声をかけられたのが始まりでした」と語るのは、日本コンピュータ・ダイナミクス 執行役員 パーキングシステム事業部長である上田 晋太郎氏だ。
管理システムに組み込まれたのは、個人情報管理や、利用希望者が定員以上いた場合の自動抽選機能などだ。ちょうど社会的に駐輪場が増えている時期だったこともあり、このシステムがヒットした。この頃、NCDがさらに駐輪場事業に注力するきっかけとなったのが、電磁ロックつきの駐輪機メーカーとの出会いだった。
「ハードウェアの販売も手がけるようになったのですが、数が出ない製品だけに高価でした。そこで駐輪場を丸ごと運営することを考えたのです。駅近の商業施設をターゲットに展開し、電鉄系からスタートしました」と上田氏。
2000年から駐輪所運営事業に乗り出した結果、約1年程度で事業は黒字化。現在は事業部制をとっているが、パーキングシステム事業部の2012年3月期の年間売上額は約32億円で、同社売上の約30%を占める事業へと成長している。
料金設定と面展開で、放置自転車のない暮らしやすい街を実現
現在は自治体や商業施設、鉄道会社をクライアントとした駐輪場運営を行っている。電磁ロック式有料駐輪場のパイオニアとして活動してきたNCDが持っているノウハウのひとつが、絶妙な料金設定だ。
一定時間の利用料金を無料にして、買い物や食事を目的とした本来の施設ユーザーは無料で利用できるようにする。ポイントは、一定枠を超えると有料になるというプランが、施設利用目的以外の駐輪に対する"罰"ではないということだ。月極駐輪場を利用するほどではないが1日駐めておきたい、月極駐輪場の抽選にあぶれて駐める場所がないという人は、料金を支払うことで商業施設などの駐輪場に正当に駐めることができるようになる。
「非常に大型な施設の場合、料金設定によって駐輪量をコントロールします。たとえばテラスモール湘南(神奈川県・藤沢)には3000台以上が駐輪できますが、自転車用だけでも5種類のエリアを設け、エリアごとに料金設定を変更しています。駅から遠いけれど1日駐めておいても100円で済む場所や、無料時間は1時間と短く4時間ごとに100円かかるけれど駅の目の前という場所を作り、利用者に選んでもらえるようにしています」と上田氏は語る。こうした地域住民の利用も見込んだ駐輪場の場合には、地域へのポスティングなどで駐輪場としての告知も行っているという。
もうひとつのノウハウが「面展開」だ。駐輪場としての価値は駅に近いほど高く、駅から徒歩3分以上離れると失われるという。この3分圏内に面展開することが大きなポイントのようだ。
「駅に最も近い施設だけ有料化すれば、すぐ別の施設に流れ込みます。新たに放置自転車が増えた施設にも営業を行い、駐輪場の有料化を提案します。そうして徒歩3分圏内を面で押さえることができて初めて、放置自転車対策ができるのです」と上田氏。
もちろん、駐輪場を有料化するだけで対策が完了するわけではない。駐輪場の通路部分に放置するような人もいるため、1つの駐輪場あたり1日3~4回の巡回を行うように、1人の担当者が10現場ほどを掛け持ちして放置自転車の整理や清掃をしている。また、駐輪機の扱いが分からない場合や故障に対応するための遠隔監視も行っている。
「事業部内にサポートセンターを設置し、社員が対応しています。使い方の解説や、間違えて自分のではない自転車の駐輪料金を払ってしまったといったトラブルは、音声通話と駐輪機の遠隔操作で対応します。また、駐輪機そのものが壊れてしまったような場合には遠隔で対応しきれません。そこで、地元の警備会社と契約して緊急対応してもらっています」と上田氏は語る。
サポートコールは1日あたり400件ほど。これは関東のみの数字だ。関西圏に関してはパートナー会社に運営を委託しており、サポートもパートナー会社が行っている。しかし関東・関西のサポートコールは互いにカバーできる仕組みをとっており、災害時などには1拠点で全国の駐輪場に対応可能な体制が整えられている。
地域の足「コミュニティサイクル」の普及にも注力
商業施設の駐輪場の場合、駐輪場の設置から運営までの全てをNCDが担当する。駐輪料金による収入で運営費用をまかなう形で、施設側からの委託料金などは必要ない。しかも、非常に収益がよかった場合には商業施設側に収益が発生するという契約の場合もあるという。
「施設側はお金をかけずに駐輪場を整備でき、利用者は適正な料金で安心して駐められ、我々にも収益がある。Win-Win-Winのソリューションです」と語る上田氏が、新たに普及を狙っているのが「コミュニティサイクル」だ。
地域全体に小規模な駐輪場を点在させ、会員登録してあればどこからでも自転車に乗ることができ、どの拠点に返してもよいという形がコミュニティサイクルだ。借りた場所に戻さなければならないレンタサイクルとはそもそものコンセプトが違っており、フレキシブルに地元の足として利用できることに価値がある。しかし大量の駐輪場設置と自転車の用意、それぞれの管理を考えると実際の運営には莫大な資金が必要だ。
ヨーロッパでは自転車などに広告を掲載することで企業が出資してくれているが、日本では法律上のハードルが高い。NCDにとっても、すでに自治体との社会実証実験を繰り返しており、地域からの実験申し込みも順番待ち状態にあるというが、商用サービスとしての展開には足踏みしている状態だ。
「しかし第1歩を踏み出すことができました。さいたま市の南与野駅にステーションを設置した会員制レンタサイクル"さいチャリ"です。現段階では、まだ1カ所で借りて返すレンタサイクルですが、いずれは駅ごとにステーションがあるなどの形でコミュニティサイクルとして利用できるものに成長させたいと考えています」と上田氏。南与野駅からは電車で移動するには時間がかかるが自転車ならば行きやすいという施設が多く、自転車需要がある。この地でサービスを定着させつつ、機を見て成長させるのが狙いだ。
さいたま市の南与野駅で開始した会員制レンタサイクル「さいチャリ」。将来はコミュニティサイクルとしての展開に期待がかかる |
環境省・国土交通省・広島市が共同で行っているコミュニティサイクルの社会実験「のりんさいくるHIROSHIMA」。実験の運営・実務をNCDが担う |
「現在は安価なママチャリ文化から、高級自転車へとシフトしつつある時期です。これに対応してロッカー式など高級自転車にも対応できる駐輪場も用意したいですね。自転車インフラ整備が進む今、駐輪場運営を行う立場を考えて展開して行きたいと考えています」と上田氏は今後の展望を語った。