北太平洋と北極海をつなぐベーリング海の東部陸棚域で、豊かな水産資源の基となる植物プランクトンの種類が、1970年代後半から別な種類へと大きく変化していることが、海洋研究開発機構・地球環境変動領域の原田尚美チームリーダーと岡山大学、九州大学などの共同研究で分かった。地球温暖化により海洋環境が変化したとみられ、その影響が海域の低次生態系の優占種を変化させるまでに及んでいることが初めて示された。

ベーリング海はサケやカニなどの好漁場となっている。その豊富な水産資源を支えるのが植物プランクトンで、特に、二酸化ケイ素の殻をもつ「珪藻」が優占種として「食物網」の底辺にあった。ところが1997年から始められた人工衛星搭載の海色センサーによる観測で、炭酸カルシウムの殻をもつ別の植物プランクトン「円石藻」のブルーム(大増殖)がベーリング海の東部陸棚域でみられ、年によっては数カ月も続くことが分かった。

円石藻は亜熱帯域の栄養塩に乏しい、光環境が安定した海域に生息する植物プランクトンで、栄養塩に富む荒天海域(鉛直方向の混合が起きやすい)の代表格であるベーリング海での円石藻ブルームはこれまで報告がなかったという。

この原因を探るために研究チームは、ベーリング海東部陸棚域の12地点から底堆積物を採取し分析した。その結果、円石藻ブルームは1970年代後半に始まっており、76-77年に北太平洋中高緯度全域で生じた大気循環や気温の急変(気候のレジームシフト)によって、ベーリング海を含む北太平洋東部高緯度域が温暖になったことと関係のあることが分かった。また、ベーリング海は1930-40年代にも温暖な環境だったが、この時は円石藻ブルームが起きていなかった。ベーリング海北部域では、円石藻ブルームが1990年代後半という最近になって出現していることも分かった。

研究チームは「円石藻の成長を促すのに最適な、海洋表層の安定した光環境や低塩化(低い栄養塩環境)が現場の海域にもたらされた結果であり、近年の温暖化による北極海の海氷域の減少が光環境の改善につながった可能性がある」と指摘する。他の研究でも、温暖化が大気-海洋間の水循環を活発化させ、その結果、ベーリング海を含む亜寒帯域が低塩化の傾向にあることが分かっていることから、「温暖化による海洋表面の昇温や低塩化が表層付近の鉛直混合を妨げ、海洋深層から表層への栄養塩供給を弱体化させたことで、貧栄養環境で優占する円石藻の群集がベーリング海でも活発に生息するようになった」と考えている。