今年、データベース市場に本格参入を宣言した独SAPが、土台となるインメモリデータベース「HANA」を着々と強化している。HANAは「ERPを高速に」というSAPの願いから開発が始まったもので、2011年秋にリリースした「HANA SP3(Service Pack 3)」では「SAP NetWeaver BusinessWarehouse」に対応、5月には最新版となる「HANA SP4」をリリースし、予測機能を加えた。
SAPがHANA SP4を発表した年次イベント「SAPPHIRE NOW Orlando 2012」で、HANAのプロダクトマネジメントを担当するMichael Eacrett氏とLori Vanourek氏にSP4の新機能、データベース戦略などについて聞いたので、お伝えしよう。
予測分析とテキスト分析に対応
HANAは他のアプリケーションのように「バージョン」ではなく、「Service Pack」という形で、新版がリリースされる。サイクルは年に2回で、SP4は2011年11月に発表されたSP3に次ぐ最新版となる。
これまでOLAP(分析系)、OLTP(トランザクション系)と拡大してきたHANAだが、SP4では予測機能とプランニングに対応分野を広げた。オープンソースの統計解析向け言語であるR言語を統合、顧客が何を望んでいるのかなどを予測可能となり、在庫や製造量の調整を実現する。「HANAに格納されたデータを使ってシミュレーション可能なものは何でも予測できる」とVanourek氏。クロスセルなどにも役立てられそうだ。
Eacrett氏はHANAの進化について、「データを1ヵ所にまとめ、分析、トランザクション処理を可能にしていった。今回、このデータを使ってプランニングができるようになる。これまで個々にエンジンが必要だったものが1つですむ」と説明した。場合によっては4個~5個のシステムのリプレースも可能で、「データの加工や移動に時間を費やすのではなく、データから得られた結果に時間を割くことができる」とメリットを語る。
「データセットを越えて1ヵ所で予測やアルゴリズム処理を行うことで、価値を最大限に引き出せる。これにより、企業は数週間かかって行っていたデータ中心のアクティビティではなく、データが与えるインパクトにフォーカスすることが可能になる。こうしたニーズが高かった」とEacrett氏は付け加える。
予測分析に加え、テキスト分析のサポートも最新版の大きな特徴だ。ここでは、SAPが以前から持っているエンタープライズ検索エンジン「T-Rex」を進化させ、構造化データ、テキストなどの非構造化データを組み合わせてのモデリングが可能となった。ドキュメントはPDFやPowerPointに限定されず、工場からのマシンのログ、売上、発注、顧客情報などさまざまな情報を利用できる。
SP4では「Hadoop」との相互運用性も実現されているが、「Hadoopでは顧客情報や価格情報が足りないといったことがあるが、HANAではデータが1ヵ所に格納されているので、すべてのデータを集めて分析も予測もできる」とEacrett氏。
HANAはデータ獲得機能も強化しており、BusinessWarehouseで使うデータ抽出機能のサポートによりHANAと直接接続できるようになった。また、リアルタイムレプリケーション機能が強化され、1つのERPシステムから複数のHANAシステムに送る機能も加わった。これは顧客企業が複数のHANA実装を持ち始めつつある状況を受けてとのことだ。
ユーザビリティとしては、認証の標準「SAML(Security Assertion Markup Language)」の実装、SAP顧客向けのテクニカルサポート「SAP Solution Manager」への対応などがある。なかでも、Solution Manager対応により、ERP、CRMと同じ管理ソリューションでHANAのライフサイクル管理が可能となる。
HANAは分析、プランニング、予測などを同時に実行可能
最大ライバルであるOracleとのデータベースにおける競合については、「HANAの優位性は1つのデータベースでさまざまな機能を統合する点にある」とEacrett氏は説明する。「TimesTen、Exalyticsなどは素晴らしい技術だが、HANAとは設計のアプローチが異なる。OracleはプランニングとBI、非構造化データ向け、キャッシュなどと各システムの特徴が異なる」とEacrett氏。
「顧客が望むのはシンプルなシステムであり、1つで分析、プランニング、予測などが同時にできるHANAが選ばれるだろう」と自信をのぞかせる。
SAPはHANAの機能強化とともに、プラットフォーム戦略も強化している。同イベントでは、「SAP Planning and Consolidation」「SAP Sales and Operations Planning」など、7種類のHANAアプリケーションを発表した。予算や計画のPlanning and Consolidationは、HANAを土台とすることで、予算データ登録の速度が3倍になるなど、性能を大きく改善するという。
SAPのアプリケーションに加えて、サードパーティによるHANAベースのアプリケーション開発も促進している。会期中、Amazon Web Servicesでの開発者向けインスタンスを無料とすることを発表、高価なハードウェアなしにHANAの上にアプリケーションを構築できるようになった。
加えて、同社は5月初め、ISV向け開発支援として約270億円規模のファンドを用意することも発表している。「HANAを単なるデータベースとは見ていない。アプリケーション構築の基盤としての位置付けもあり、プランニング、予測、非構造化対応など、通常なら別の製品で提供すべき機能を付加している」とEacrett氏。プラットフォーム戦略も強化し、「パートナー企業がHANAを利用してSAPと競合するアプリを開発することもウェルカムだ」と述べた。
Eacrett氏らによると、HANAは次期版(SP5)までにSAPのクラウド製品「SuccessFactors」に対応予定で、年内にERP対応も実現できる見込みだという。