NECと東北大学は6月18日、身の回りにある熱から発電する「熱電変換素子」において、「スピンゼーベック効果」を用いて、発熱部分にコーティングすることで利用できる新しい素子を開発したと発表した。

成果は、東北大 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)/金属材料研究所の齊藤英治教授、同金属材料研究所の内田健一助教らの研究グループと、NECの研究者らの共同研究によるもの。研究の詳細な内容は、英科学誌「Nature Materials」に掲載されるに先立ち、同オンライン版に日本時間6月18日付けで掲載された。

熱は社会生活においてさまざまな場所で発生しているが、その多くは利用されずに捨てられている。従来から、そうした廃熱から発電できる熱電変換素子の利用が進められてきたが、素子の構造が複雑、大面積化が困難などの課題があり、利用シーンが限られていた。

今回開発された熱電変換素子は、温度差から磁性体のスピン流が発生する「スピンゼーベック効果」を利用することが最大の特徴だ。これにより、シンプルな素子構造を実現すると共に、簡易な塗布プロセスを利用できるため、従来の素子に比べて製造工程が簡易になる。

同素子を利用することで、塗布を用いて広い面積の熱源から大きな発電量を得たり、さまざまな形状の熱源上に素子を形成することが可能になる点が大きい。

また、スピンゼーベック効果により、高効率な熱電変換を期待することも可能だ。スピンゼーベック効果は、温度差をつけた磁性体において、温度勾配と並行に電子の磁気的性質であるスピンの流れ(スピン流)が生じる現象のことである。齊藤教授らにより2008年(当時は慶應大学)に発見された。2010年には、絶縁性の磁性体でもスピンゼーベック効果が生じることが、齊藤教授らにより発見されている。

これらにより、これまで実現が困難だった利用シーンに熱電変換素子を適用し、廃熱を電気として無駄なく利用できるようになるというわけだ。今回開発された熱電変換素子の特長は、以下の通り。

磁性体と金属電極を基板上に積層するシンプルな2層構造を採用し、製造プロセスを簡易化することに成功している。1層目には、温度差によりスピン流が発生するスピンゼーベック効果を利用する磁性体を使用。

2層目には、1層目で発生したスピン流を電流に変換する作用を持つ金属電極が使用されている。これらにより従来の、多数の「熱電対」(異なる2種類の金属や半導体を接合したもののことで、両端に温度差をつけると温度差に応じた電圧が発生する)を繋ぎ合わせる構造の素子と比較して、製造プロセスを簡易化した形だ。

そして、磁性体の形成に塗布プロセスを利用している点もポイントである。これにより、従来の素子は複雑な構造を持つがために困難だった大面積化や、曲面・凹凸面などさまざまな形状や材料の熱源上へのコーティングによる素子形成が可能となるため、熱電変換素子の利用シーンが拡大したというわけだ。

下の画像のガラスのように、今回開発された素子は家庭や工場、電子機器や自動車などのさまざまな形状をしていて、さまざまな素材からなる発熱部分に合わせて形成することが可能だ。これにより、社会に広く存在する大量の廃熱を電気として有効利用できるようになると共に、廃熱からの発電を身近に利用できるようになると、研究グループは述べている。

また、NECと東北大学は今後も、同熱電変換素子の実用化に向けて研究開発を進めていくとした。

熱電変換素子をコーティングしたガラス板