名古屋大学(名大)は、同大を含めた日本の研究者が中心となって組織された「NK腫瘍研究会」が、血液中の「EBウイルス」のDNA量が「NK細胞リンパ腫」に対する抗がん剤治療後の治療効果や有害事象の発生予測に有効であることを明らかにしたと発表した。
成果は、名大 大学院医学系研究科 造血細胞移植情報管理・生物統計学(日本造血細胞移植学会)寄附講座の鈴木律朗准 教授、同大学院医学系研究科 ウイルス学の木村宏准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、6月6日付けで米がん学会誌「Clinical Cancer Research」電子版に掲載された。
血液細胞の1つであるリンパ球は「B細胞」、「T細胞」、「NK細胞」の3種類からなるが、この内NK細胞ががん化する「NK細胞リンパ腫」は、欧米にはほとんど見られず、日本・韓国・中国などの東アジアで頻度の高いリンパ腫だ。
このタイプのリンパ腫は通常のリンパ腫に有効な「CHOP療法」がほとんど効かず、新しい抗がん剤治療である「SMILE療法」が有効なことを、NK腫瘍研究会が2011年に示している。
しかしながら、SMILE療法は従来の治療法より強力な治療で、有害事象(副作用)の発生に個人差があることから、その予測法を見つけることが課題だった。
そこで研究グループでは、SMILE療法を受けた患者26人を対象に、血液中のEBウイルスのDNAを測定を実施。NK細胞リンパ腫の患者からEBウイルスのDNAが検出されることは、以前の研究より明らかになっていたからである(画像1)。
その結果、EBウイルスDNAが全血中で10万コピー/ml以下であった患者の腫瘍縮小率は90%であったのに対し、10万コピー/ml以上の患者では20%と大きな差があることが判明した。
白血球減少を除くグレード4の有害事象(副作用)の発生率は、EBウイルスDNAが10万コピー/ml以下の患者では35%だったが、10万コピー/ml以上の患者では100%という結果に。同一の治療を受けた患者で検討することにより、有害事象(副作用)の発生を初めて予測できた形だ。また、EBウイルスDNAが10万コピー/ml以上の患者では有意に予後不良だった(画像2)。
今後はSMILE療法を受けるNK細胞リンパ腫の患者に対して、血液中のEBウイルスDNAを治療前に測定し、高値の場合は抗がん剤の量を適切な量に減量する個別化治療が可能になるという。
有害事象(副作用)の強いSMILE療法でこういった調節が可能になると、より多くの人がSMILE療法を安全に受けることが可能になり、NK細胞リンパ腫の治療成績の更なる向上が期待できる。しかしながら、血液中のEBウイルスDNAの測定はまだ健康保険で認められておらず、普及のためには早期の保険承認が望まれるという。