名古屋大学(名大)は、国内では同大学が中心となって6大学が参加している国際プロジェクト「OPERA」実験において、2010年5月の最初の検出に続き、累計約4000例のニュートリノ反応の中から2例目の「タウニュートリノ」反応を検出したと発表した。
今回の成果は、6月3日から9日まで京都において開催された国際会議「NEUTRINO2012」で報告されている。
OPERAは、丹羽公雄博士(現 名大名誉教授)の発案と、日本独自の原子核乾板技術を基礎に、国際協力で実現された実験だ。日欧を中心とする11カ国30研究機関の約160人の研究者が参加する国際プロジェクトで、日本からは名古屋大学を筆頭に、愛知教育大学、宇都宮大学、神戸大学、東邦大学、日本大学が参加している。
スイスのCERN研究所で作られた「ミューニュートリノ」が、イタリアのグランサッソー研究所までの730kmを飛行する間に変身して現れるタウニュートリノを、日本の原子核乾板技術で検出し、「ニュートリノ振動現象」の存在を直接的に証明しようとするものである。
2007年まで約7年かけて装置の建設が進められ、2008年から本格的なニュートリノ照射とその解析がスタート。現在まで、約4000のニュートリノ反応が解析され、タウニュートリノ反応の探索も並行して行われてきた。
ニュートリノ反応の検出に当たって重要な役割を果たしているのが、素粒子の飛跡を写すことができる富士フイルム製の原子核乾板だ。実験では、はがきサイズのものを約950万枚も使用し、ニュートリノ反応を起こさせるための鉛板とサンドイッチにして使用されている。
フィルムに写った飛跡の読み出しには、中野敏行博士(現名大助教)が開発した世界最高速の自動飛跡読取装置を使用しており、フィルムの読み出しと解析を担当しているのが、名古屋大学 大学院理学研究科F研究室だ。
ニュートリノ振動現象は、名大にかつて在籍していた牧二郎博士、中川昌美博士、坂田昌一博士(いずれも故人)が1962年に理論的に提案したもので、ニュートリノが重さを持てば、3種類あるニュートリノが互いに変身しあうという現象だ(ミューニュートリノ、タウニュートリノ、電子ニュートリノの3種類)。
実験的には、これまで東京大学宇宙線研究所の戸塚洋二博士(故人)のグループを中心として、いくつかの実験で特定種のニュートリノの減少として、その兆候が検出されてきたが、振動であれば必ず現れる変身した先の別種のニュートリノはこれまで検出されておらず、その検出が待たれていた。
OPERAは、タウニュートリノをとらえることができる原子核乾板技術を用いて、ミューニュートリノがタウニュートリノへの変身をとらえるユニークな実験となっている。
今回、OPERAで検出されたタウニュートリノ反応は2例目となり、ミューニュートリノのタウニュートリノへの変身、すなわちニュートリノ振動が起こっていることの最終検証に向けて、また一歩前進した形だ。なお、OPERAは、現在もニュートリ反応のデータを取得中である。