東北大学(東北大) 流体科学研究所および原子分子材料科学高等研究機構の寒川誠二 教授らの研究グループは、新たな鉄微粒子含有タンパク質(リステリアフェリティン)を用いた自己組織化による金属微粒子テンプレート技術と超低損傷微細加工技術として独自に開発した高効率低エネルギー中性粒子ビーム加工技術を融合した太陽電池作製プロセス技術を確立したことを発表した。同成果は6月3日から8日まで米国オースティンで開催されている「第38回 IEEE Photovoltaic Specialist Conference」で発表された。
同技術は、シリコン酸化膜上に形成した数nm厚の結晶化Si上に鉄微粒子内包タンパク質を配置した後、タンパク質のみを除去して均一高密度等間隔4.5nm径鉄微粒子を配置するテンプレート形成技術と、その鉄微粒子をマスクとして独自に開発した低エネルギー塩素原子ビームを用いることで結晶化Siを無欠陥で加工するというもの。
中性粒子ビームで作製されたSi円盤構造はほぼ無欠陥で、直径および厚さを制御することでバンドギャップを高精度に制御できる量子サイズ効果を示す。また、シリコンナノ円盤構造の中心間距離が8.7nm±10%と均一で高い周期性を持ち、量子円盤構造の面密度が1012cm-2と高密度で2nmの等間隔に配置されているため、理想的な2次元超格子構造が実現できていると考えられ、これにより、高効率量子ドット太陽電池を目指した6.4nm径Si量子円盤アレイ構造を無損傷で作製できることが実証されたとする。
また、シリコン量子ナノ円盤構造は直径と厚さの2つのパラメータで1.3~2.eVの間でバンドギャップを高精度に制御できるほか、間隔や周期性、中間層材料を制御することで円盤構造間の波動関数の形状や重なりを制御できることから、理論的に予測されていたナノ構造間の新たなバンド(ミニバンド)が寄与していることが明らかとなった。
さらに、Si量子円盤アレイ構造とSiCのサンドイッチ構造を用いて単層シリコン量子ドット太陽電池を試作したところ、単層ながら、2008年にUniversity of New South WalesのGreen教授のグループが15層シリコン量子ドット太陽電池で実現したエネルギー変換効率10.6%を上回るエネルギー変換効率12.6%を確認したという。
この際、単層のシリコン量子ナノ円盤アレイ構造において太陽電池全体におけるキャリア発生量の3.4%にあたるキャリアが発生していることが定量的に明らかにされており、これは、この単層シリコン量子ナノ円盤アレイ構造が高効率発電に寄与できていることを太陽電池デバイス上において実証したものだという。
また、この結果は作製したSi量子円盤アレイ構造とSiCのサンドイッチ構造を4~5層積層した光吸収層をタンデム化することで、理論的なエネルギー変換効率が40%以上のシリコン量子ドット太陽電池の実現の可能性を示すものになるという。
なお研究グループでは、同円盤アレイ構造が高効率太陽電池として期待される量子ドット太陽電池を実現することを可能とし、5年程度での実用化を目指して研究を進めていく予定としている。