日本の奈良時代にあたる西暦775年ごろに、大気中の放射性炭素14の濃度が急激に増加したことが、名古屋大学の太陽地球環境研究所の増田公明准教授、年代測定総合研究センターの中村俊夫教授らによる屋久杉の年輪を用いた同位体測定で分かった。炭素14の急増量は通常の太陽活動による変動よりも20倍も大きく、過去3,000年間で最大規模の宇宙線の地球飛来があったと考えられるが、775年に対応する天文現象は歴史記録には見つかっておらず、原因は特定されていない。

大気中の放射性炭素14は、地球外から飛来する宇宙線が大気と反応して生じた中性子によって窒素原子が変化して作られる。大気中の炭素は循環によって一様に混合し、光合成によって樹木に取り込まれるため、年輪中の炭素14の濃度を測定することで、その年代の宇宙線の量が分かる。さらに炭素14の半減期(5,730年)との関係から年代測定にも用いられ、過去1万2,000年間の10年ごとの炭素14の濃度測定データによる、世界共通の年代測定のための「較正曲線」(IntCal)も作られている。

このIntCalデータによると、過去3,000年間に地球上の炭素14の濃度が10年間で3パーミル(‰:千分率)以上も急増した時期は紀元前600年ごろと西暦780年ごろ、西暦1800年ごろの3回ある。名古屋大学の研究チームは、この3回のうち、1年ごとの炭素14濃度の測定がまだ行われていない西暦780年ごろに焦点を当て、樹齢1,900年の屋久杉の単年輪の炭素14を測定した。その結果、西暦774年から775年の1年間だけで12パーミルも急増していることが分かった。

この結果に基づく10年平均のデータは、IntCalの10年値と一致し、南極のアイスコア資料から得られた宇宙線生成核種のベリリウム10の30年値でも同様な増加がみられることから、屋久杉で得られた現象は地球外の宇宙線によって全地球で起きていたと考えられる。さらに今回の炭素14の濃度の急増とその後の減衰の様子から、西暦774年から775年にかけて宇宙線が急増して大気中に炭素14を生成し、その後の炭素循環によって減衰していったとみられるが、なぜかこの変化は、1960年ごろに行われた大気圏内での核爆発実験による大気中炭素14の変化と同様な形をしているという。

研究チームによると、西暦774-775年の炭素14濃度の急増は、通常の太陽活動の11年変動による銀河宇宙線の変化に比べて20倍も大きな変化率だという。その原因として、地球から近傍での超新星爆発によるガンマ線の大量放出や、太陽表面の大爆発(スーパーフレア)による高エネルギー陽子の放出も考えられるが、地球までの距離と放出エネルギーの関係や、スーパーフレアの現実的な発生の可能性などから、現在のところは不明だ。

研究チームは、現在、太陽活動が非常に不活発になっており、地球環境に及ぼす影響が議論されている。「過去の大きな宇宙環境の変化と地球環境との関連を解析することは、将来の地球環境の変動を予測するためにも重要だ」と話している。研究成果は英国の科学誌「ネイチャー」(オンライン版、3日)に掲載された。

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