東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・人体病理学分野の江石義信教授の研究グループは、独自に開発したアクネ菌菌体成分に対する抗体を用いて病変部組織を解析し、日本およびドイツのサルコイドーシス患者の約8割前後で、病変部肉芽腫内にアクネ菌が局在していることを病理組織学的に証明したと発表した。同成果は、アメリカ・カナダの病理学会機関雑誌である国際科学雑誌「Modern Pathology」オンライン版で掲載された。
日本において難病指定を受けているサルコイドーシスは、その発見以来130年以上が経過した現在でも原因不明とされる全身性肉芽腫疾患となっている。患者数は年々増加傾向を示しており、厚生労働省(厚労省)への登録患者数は平成20年の時点で約2万人に達している。発症年齢のピークは男性で20歳代後半、女性では20歳代後半と60歳代前半に二峰性で、認められる症状は罹患する臓器により、視力低下、咳、呼吸苦、皮膚の発疹、不整脈など、肉芽腫が出来た臓器の障害として出現する。サルコイドーシスは概して良性の経過を辿るが、約3割の患者では慢性化や再発を繰り返し、肺の炎症が長期にわたり繰り返された症例では間質の線維化が進行して肺線維症を呈し呼吸不全により死に至ることもある。また、日本では特に中年女性の患者において心臓サルコイドーシスによる死亡例が多いことが特徴で、多くは肉芽腫形成が刺激伝導系を障害し不整脈による突然死を起こしていた。
サルコイドーシスは結核と似ていることから、欧米では長年のあいだ結核菌がサルコイドーシスの原因細菌として疑われてきたが、病変部から結核菌が培養されることはなく、肉芽腫内に結核菌を証明したとする報告もなかった。日本では1878年から1984年にかけて旧厚生省難病研究斑により微生物学的検索が行われた結果、病変部リンパ節からアクネ菌が約8割の症例で分離培養され、結核菌やその他の微生物はまったく検出することができなかった。ところがアクネ菌は皮膚に常在する偏性嫌気性グラム陽性桿菌であり、しかも他疾患検体からも約2割の症例でアクネ菌が分離培養されてきたことから、アクネ菌を原因細菌と確定するには至っていなかった。
これまで研究グループは、病変部リンパ節をマウスに免疫することで病変部肉芽腫内に反応する抗体を作成しこれがアクネ菌の培養上清と特異的に反応すること、本症病変部リンパ節から多量のアクネ菌DNAが検出されること、本症患者にアクネ菌に対するアレルギー素因が存在することなどの研究経緯から、本菌がサルコイドーシスの原因細菌となりうるものと確信して研究を行ってきた。
通常、肉芽腫形成の原因物質は肉芽腫内部に検出される。研究により日本だけでなく欧米のサルコイドーシス患者においても約8割の症例で病変部肉芽腫内にアクネ菌が検出されることが判明し、"アクネ菌が普遍的にサルコイドーシス肉芽腫形成の原因細菌であること"が示された決定的な証拠となった。
この結果は、"結核菌が原因細菌である"と仮説を立てて研究を行ってきた欧米諸国においても注目されるもので、日本が世界に向けて発信できる独創性の高い研究だと研究グループでは説明している。
サルコイドーシスの治療法は、副作用の強いステロイドを中心とする免疫抑制剤の投与以外に確立していないが、この成果をもとに日本のサルコイドーシス基礎・臨床研究が進展することで、今後は抗菌剤をはじめとした原因に対する根本的な治療法の開発が発展して行くことが期待できるようになるという。