東京工業大学(東工大)応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授と米スタンフォード大学などで構成される日米共同研究チームは、強相関電子系物質における高温超伝導や巨大磁気抵抗などの発現メカニズムのカギを握る「電子の集団運動」を、X線自由電子レーザーを用いてリアルタイム観測することに成功したと発表した。同成果は英国の科学誌「Nature Communications」に掲載された。

高温超伝導や巨大磁気抵抗などの現象を示す強相関電子系物質では、電子の秩序状態や集団運動の理解が、メカニズム解明への有力な手がかりになると考えられている。また、強相関電子系物質で秩序状態にある電子を光パルスなどで励起することにより、過渡的に集団運動する新しい電子状態を創造して、電子機能につなげようという研究も盛んに行われるようになってきている。

今回研究チームは、ナノメートルの周期で電子が縞状に規則正しく配置することで知られている代表的な強相関電子系物質であるランタン・ストロンチウム・ニッケルの酸化物「 (La,Sr)2NiO4」を対象として、光によって電子状態に刺激を与えた際に、どのように電子が集団運動するのかを数兆分の1秒の時間分解能で観測することに成功した。

観測には、X線と数兆分の1秒のシャッタースピードで超高速現象を観測できるレーザーの性質を兼ね備えた、X線自由電子レーザーとして、世界で初めて稼働したX線自由電子レーザー施設として知られる、スタンフォード大学構内にあるSLAC国立加速器研究所の線型加速器コヒーレント光源(LCLS)で行われた。

今回の実験では、光パルスで電子の秩序状態に刺激を与えた後に元の状態に戻るまでの電子の集団運動の様子を、X線自由電子レーザーを用いた共鳴X線回折という手法でリアルタイム観測を行った。

図1 実験の概念図:光バルス(800nm)で強相関電子系物質中の秩序化した電子状態に刺激を与え、変動状態から元に戻る際の電子の集団運動の様子を、X線自由電子レーザーを用いた共鳴X線回折法によって観測した

秩序状態は、秩序の振幅(規則配置による電子密度の周期的な濃淡)と秩序の位相(基準点からの配置のずれ)の2つで決定されるが、この両者の時間的な変化を観測した例はこれまでになかった。

観測の結果、光による刺激で変動した電子相の秩序状態が元に戻る際には、振幅の回復よりも位相の回復に10倍以上も時間がかかることが判明した。

図2 観測結果の概念図:光励起された電子秩序は、最初に秩序の振幅(Δ)が回復し、その後に10倍以上の時間をかけて位相(φ)が回復した。この際に、秩序の周期(ξ)は変化しなかった。観測したダイナミックスは、数兆分の1秒から数100億分の1秒の間に生じている現象である

今回の研究結果は、ナノスケールで複雑に相互作用しあう電子集団の超高速ダイナミクスを捉えるとともに、そこにおける位相の重要さを示した結果として意義を持つという。今後、強相関電子系物質において機能を生み出している電子の集団運動に対して、同手法を用いた研究が活発に行われることが予想され、これによって理解が進むことが期待できるという。