リコーは、インクジェット印刷(IJP)法に有効なPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)薄膜アクチュエータと鉛フリーピエゾ材料の2つを開発したと発表した。

電子デバイスの製造プロセスにIJP法を用いると、従来の半導体製造プロセスに比べ、材料の高い利用効率、少ない工程数、製造時の環境負荷低減、製造コストの大幅な低減、多品種少量生産への対応力など多くのメリットがあり、近年注目を集めている。

今回、圧電素子材料として多用されているPZT材料をインク化して、通常のIJP法による成膜の約50倍となる膜厚2μmでアクチュエータとして機械的変形特性を発揮するピエゾ薄膜パターンを形成することに成功した。これには、正確なパターンを描くインクの吐出制御技術、基板表面の親水-疎水性制御技術、不要物を排除しながら厚膜を焼く焼成技術などの独自技術が寄与したとしている。また、膜厚を均一に形成するため、溶剤の種類や乾燥速度などに独自の工夫を施したという。

IJP 法で塗布した厚さ2μmの実サンプル。黒い部分がPZT で、ラインのはみ出しなく均一なパターンが形成できている

2μmの膜厚に形成されたPZT薄膜の断面写真。ほぼ等間隔で規則正しく層が形成されており、また内部に空隙などの欠陥のない良質の膜になっている

PZTは優れた圧電特性と強誘電特性を持ち、センサやアクチュエータなどに用いられ、カーナビゲーションシステムや高精度位置決め装置など様々な製品に搭載されている。また、PZTはRoHS指令の規制物質である鉛を含んでいるが、代替できる材料がないために、同指令の適用除外対象となっており、代替材料の開発が進められている。しかし、実用レベルには至っていないのが現状だ。

リコーでは、PZTに代わるピエゾ材料として、鉛フリーのチタン酸バリウムにスズを添加した材料系(BSnT材料)で、PZT並みの変形特性(電圧を加えたときの変形量)をもつ材料の開発に成功した。同材料は、良質の膜を形成する際に高温度で焼く必要があるが、基板の下地層(ピエゾ材料の下層に設ける電極層)の耐熱性を上げることで、シリコン基板上でも実用レベルのBSnTの成膜を可能とした。これにより、MEMS化やモジュール化なども可能となり、応用範囲が格段に広がった。さらに、粉体から作製する従来方法とは異なり、BSnTの原材料に液体を用いており、ピエゾ薄膜を形成する際にコスト・環境面で有利なIJP法を適用可能とした。

焼成温度によるBSnT膜の組織の違い。結晶粒径の大きいと良質な膜とされており、右側の1000℃で焼成したもの方が大きいことが確認できる

この2つの技術を組み合わせることで、従来のPZTの圧電素子を材料面(鉛フリーの材料)と製造プロセス面(IJP法)の両面で、既存技術からの代替えを推し進めることになるとリコーでは見ている。今後、アクチュエータのプロトタイプを製作し、製品化に向けた技術課題を解決していく方針。