植物の雌(め)しべが受精に失敗しても、もう一度受精を試みるバックアップシステムのあることが、名古屋大学大学院の笠原竜四郎研究員らの研究で分かった。
被子植物では、雌しべの先に花粉が付くと、花粉から「花粉管」が伸びて、子房の中にある「胚珠(はいしゅ)」と呼ばれる種子の基になる部分に到達する。その花粉管の先端から精細胞が放出されて胚珠内の卵細胞と受精する。このとき、胚珠内にある2個の「助細胞」が花粉管を誘引し、花粉管が到達すると1個が壊れて“受精の場”を作ることが知られていたが、なぜ助細胞が2個あるのかは理由が分からなかった。
笠原研究員らはアブラナ科シロイヌナズナを用いて受精に異常のある突然変異体を調べていて、通常の50%ほどしか種子ができないはずなのに、70%近い稔性のあることに気が付いた。詳しく観察したところ、最初の花粉管が伸びて受精に失敗すると、2つ目の助細胞が壊れずに残っていて、もう1本の花粉管を誘引して伸ばし、2回目の受精を試みることが分かった。花粉管が1本だけ到達してできた種子は全体の50%、2本目でできた種子は18%となり、合計した種子の形成率は68%と、観察された稔性とほぼ一致した。
こうした受精のバックアップ機能を、笠原研究員らは「受精回復システム(Fertilization Recovery Syatem)」と名付け、米科学誌「カレント・バイオロジー(Current Biology)」(17日、オンライン版)に発表した。受精のやり直しのチャンスは1回だけだが、他にもオオムギやエンドウなど、多くの植物が2個の助細胞を持っている。今後、「受精回復システム」の分子メカニズムが解明されれば、植物の交配をコントロールし、厳しい環境条件下でも、少しでも多くの種子を実らせることができるようになるかも知れないという。
今回の研究成果は、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業・ERATO型研究「東山ライブホロニクス・プロジェクト」(研究総括、東山哲也・名古屋大学大学院 教授)によって得られた。
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