慶応義塾大学(慶応大)理工学部システムデザイン工学科の満倉靖恵 准教授らの研究グループは5月21日、人の脳波から好き嫌い、興味度、眠気、集中度、欲求、ストレス度などの官能度を抽出できる簡易脳波計測器の開発に成功したことを発表した。同機器は、装着に約1分と従来の機器より装着が手軽になった上、独自に開発した脳波データの解析により、官能評価を即時にオンラインで蓄積・閲覧することができるという。
従来、官能評価(好き嫌い、興味度、眠気、集中度、欲求、ストレス度の評価)はアンケートベースによる記入式の調査が主体であったため、被験者問のアンケート項目に対する言葉の理解差や被験者の体調や気分による言葉の捉え方の違いにより主軸の無い、あるいは軸のずれた調査になってしまうという課題があり、必ずしも調査施行者の意図した調査が行えているとは言えなかった。
そこで研究グループでは、対象に対する反応を直接示す脳波という1つの主軸を用いて官能評価できる装置の開発を行った。また従来の脳波計測器は、脳全体の脳波を計測するため装置も大型で、機器の装着や脳波の分析などにも時間がかかってしまい、脳波計測が大がかりなものとなっていたが、この課題を解決するために、今回の研究では嗜好や快・不快に焦点を絞り、脳波の計測箇所をFP1(左前頭極部)のみとする計測の簡易化をはかることで、装着物の簡素化に成功した。
これまで大型の脳波計測器では装着に約30分から40分程度かかり、頭皮部分にジェルを必要としていた。しかし、今回の脳波計測器は装着に約1分、ジェルは不要であることからユビキタスセンシングが可能になるという。具体的に同計測器は、頭皮上の電圧を増幅し、周波数に変換することでデータを取得し、得られた頭皮上のデータから、瞬き・眼電および筋電などをノイズとして除去し、脳波を取得する。
また、オンラインで脳波を取得し、好き嫌い、興味度、眠気、集中度、欲求などを評価することが可能という特長を有している。
同計測器にて得られたデータは、まずノイズと脳波に分類される。瞬きや体動によるノイズを脳波と分類するためには統計学処理が用いられており、その後、得られた脳波信号の解析が行われる(脳波データは逐次更新しながら計算できる仕組みになっている)。
脳波を用いた研究の多くは、帯域(アルファ波、ベータ波など)を使用し、先行研究でアルファ波帯域が大きいと集中しているなどの定義がなされているが、これは、個人によってまったく異なっていることも明らかになっていることから、研究グループでは帯域に注目することなく、単独周波数に着目し、その組み合わせで状態(好き嫌い、興味度、眠気、集中度、欲求、ストレス)を定義した。これらの組み合わせ(例えば興味関心を示す脳波は○Hzと●Hzが重要であるなど)を取得するために独自のアルゴリズムも開発した。
さらにパターン認識手法で状態の程度(20%集中している、90%集中している、など)の推定を行っている。このパターン識別手法には、例えばサポートベクタマシンや自己組織化マップなど多くの方法を用いているが、取得したい状態(例えば「眠い」という状態を取りたいという目的)に合わせて最適な手法の選択が可能となっている。
なお、研究グループでは今後、脳波計測器の改良や解析方法の高度化を進め、思った時に思ったことが脳波で通信できるような、さらに一歩進んだシステムの開発を行っていきたいとしている。