無線通信機器で知られるスウェーデンEricssonが、クラウドへの注力を進めている。クラウドはモバイルと補完しあって形成していくトレンドであり、同社は既存の顧客であるテレコム企業を支援するとともに、新たな市場開拓も図る。今回、今年1月にCTOに就任したEricssonのUlf Ewaldsson氏に、同社が掲げるコンセプト「ネットワーク型クラウド」について話を聞いた。

EricssonのCTO、Ulf Ewaldsson氏

クラウドの牽引役はベンダーではなくモバイル端末

クラウドと聞くと、第一の担い手としてITベンダーが挙がるが、今日のクラウドブームの牽引役はむしろタブレットやスマートフォンなどのモバイル端末と言ってよいだろう。したがって当然、クラウドはモバイルネットワーク側から見ても重要なトレンドとなっている。

モバイル側からすると、モバイルブロードバンドとデータサービスという流れの延長線上にクラウドはある。端末は増加を続けており、「4億8,800万台のスマートフォン、6000万台のタブレット、モバイル/ポータブルの要素を持つノートPCやネットブックが2億台。これらを合わせると7億台を超える端末が存在しているわけで、これらがすべてネットワークにつながってくるのだ」とEwaldsson氏。

Ericssonは数年前に、「2020年に500億台の端末がネットワークにつながる」というネットワークソサエティのビジョンを掲げた。スマホやタブレットに限らず、空調、プロジェクター、カメラ、洗濯機と「チップを搭載した機器はすべて無線経由でネットワークにつながる」という世界だ。

クラウドが普及している要因として、端末側がインターネットに対応し、ユーザーがネットに常時アクセスを求める傾向に加えて、Ewaldsson氏は企業側の事情も挙げる。「IaaSやSaaSにより、システム構築がこれまでになく容易になっている。このトレンドはサーバ側で始まり拡大している。当初、クラウドはSMBをターゲットとしていたが、規模の大きい企業でも受容の動きが活発になってきた」

Ewaldsson氏は、「2015年にはすべてのデータセンター投資の35%がクラウドに費やされる」という査データを引き合いに出し、「クラウドは年間成長率20%程度で成長している。これはオペレーターにとって新しいチャンスをもたらす」と続ける。法人顧客にクラウドベースのサービスを提供するオペレータは増えており、「既存の通信サービスなどと組み合わせると、魅力的なサービスを提供できる」という。

他社との差別化ポイントとなる「ネットワーク対応クラウド」

Ericssonがクラウドを戦略の柱の1つとして発表したのは、2011年の「Mobile World Congress(MWC)」だ。今年のMWCではデータセンター構築ソリューションを発表し、オペレーターのパブリッククラウド展開の支援に本格的に乗り出した。同時に、オープンソースのIaaSプロジェクトOpenStackへの参加も発表した。MWCでは、OpenStackベースでの仮想データセンタープロビジョニングなどのデモも披露している。

EricssonがMWCで披露したOpenStackベースのクラウド管理

Ewaldsson氏はEricssonのクラウドの特徴を5つのCで表現する。1つ目は「Connect」で端末やモノを接続し、ネットワークを通じてサービスを加速、これによりエンドユーザーのサービスを改善するという。2つ目は「Control」でネットワーク管理と運用効率化、SLA(サービス品質保証)の提供となる。3つ目は「Compute」で土台となる処理能力の提供、4つ目は「Create」でAPI提供によりサービスの生成やSaaS提供を可能にすることだ。5つ目は「Customize」でカスタマイズしたサービスの設計・構築となる。

これらの要素により実現するのが「ネットワーク対応クラウド」で、 数あるデータセンター構築技術においてEricssonが差別化とするポイントだ。「ネットワーク対応クラウドを用いれば、オペレーターは既存のネットワーク機能をクラウドに付加できる」とEwaldsson氏。ネットワーク対応クラウドの例として、次のように語った。

「無線アクセスネットワークでは、特定のコンテンツを一部ユーザーが優先してアクセスできるような設定が可能だが、ネットワーク対応クラウドでもこのような優先順位付けが可能となる。コアネットワークでは、キャッシュ機能により特定のコンテンツに迅速にアクセスすることが可能だ。将来、ユーザーの移動に合わせてコンテンツをネットワーク内で動かすことも可能になるだろう」

Ericssonは2011年、この分野で米Akamai Technologiesと提携している。Ewaldsson氏がもう1つ、胸を張るのが管理分野だ。無線ネットワークでは、運用管理システム(OSS)とビジネス支援システム(BSS)などの技術を利用した高度な管理が可能だ。こうした高機能な管理技術は「クラウドの重要なコンポーネントになる」とEwaldsson氏。ここでは、2011年夏に買収した米Telcordiaの技術が生かされる。

世界的に見て、オペレーターはデータ通信の急激な増加と価格競争という大きな圧迫を受けている。多数のオペレーターを顧客に抱えるEricssonは、成長分野としてのクラウドに大きな可能性があると見ている。「クラウドはオペレーターなどの通信事業者にとって大きなチャンスになる。オペレーターはネットワークソサエティを現実のものにするにあたってカギ鍵を握っている」とEwaldsson氏は述べた。