5月17日、東京都千代田区の東京国際フォーラムにて「富士通フォーラム2012」が開幕した。今年のテーマは「お客様とともに描く、これからの社会とビジネス ~ Reshaping ICT - Reshaping Business」。モバイル端末からサーバ、ストレージ、クラウドサービス、さらには企業や社会を支えるソリューションまで、人に優しい豊かな社会を実現するための技術が展示会場およびセミナー会場で紹介された。

本稿では、富士通 代表取締役社長の山本正已氏が登壇した初日の特別講演、および展示ブースの概要を簡単にレポートしよう。

富士通フォーラム2012 会場の様子

これからのCIOに課せられる新たな任務

富士通フォーラム2012は、イベントテーマと同名タイトルの特別講演「お客様とともに描く、これからの社会とビジネス ~ Reshaping ICT - Reshaping Business」によって幕を開けた。座席数1500超の会場は講演開始時から満席。同イベントに対する注目度の高さを伺わせた。

特別講演に登壇した富士通 代表取締役社長 山本正已氏

特別講演は、山本氏とガートナージャパン リサーチ部門 日本統括 バイスプレジデントの山野井聡氏による対談形式で展開された。グローバル化、ソーシャル活用、ビッグデータなど、現在話題のトピックスに対して、業界の動向を紹介しながら、富士通の姿勢やユーザーへの提言が示された。

山野井氏は講演の冒頭、国内企業のICT支出予測の調査結果を提示し、2年続けて減少傾向にあることを紹介。2010年の22兆8592億円が、2012年には22兆2662億円になるとの見込みを示した。また、CIOの優先課題の調査結果にも触れ、昨年1位だった「クラウドコンピューティング」が今年は9位(世界では3位)にまでランクダウンした一方で、昨年2位だった「モバイルテクノロジー」が1位に、昨年5位だった「アナリティクスとビジネスインテリジェンス」が2位になっていることを紹介。経営環境とICTへのニーズが大きく変化していることを示唆した。

こうしたデータを受けて山本氏は、経営環境の変化についてグローバルの視点で言及。「先進国が牽引する時代から、人口の多い新興国が牽引する時代になり、以前のような暗黙の共通ルールが通用しなくなっている」とし、昨今顕著な価格破壊についても「ルールなきグローバルの戦いが商品に影響している」との見解を示した。そのうえで、「国内から黙って見ているだけではダメ。今後は、グローバルに目を向けていかないと企業の成長は見込めない」と語り、グローバルでの事業を展開するうえではICTが大きな役割を果たすと続けた。

また、山本氏によると、モバイル端末やクラウドサービスをはじめとするICTの進化に伴い、CIOの役割も変わりつつあるという。

「一昔前とは比べ物にならないコンピューティングパワーを手軽に利用できるようになった結果、新ビジネスへのチャレンジが現場から起こるようになってきている。CIOは今後、そうした現場をつなぐ役割も求められるようになる」と説明。CIOの責任が以前よりも重くなっていることを強調した。

ビッグデータ時代は"予測"が求められる

講演では、話題のビッグデータにも話が及んだ。

山本氏はビッグデータに関して、その種類を「すでに会社に蓄積されたデータ」と「SNSのように、社会に存在するデータ」の2つに分類。そのうえで、「双方をうまくコンバインさせて分析し、ビジネスにどう活用するかを考えることが重要。ビッグデータ自体に大きな価値があるわけではない」と説明した。

これに対して山野井氏は、「ERPをはじめとする企業内にあるデータは、あくまで過去の情報。しかし、今後は、センサーなどの情報も活用して先を予測することが求められるようになる」と補足。そして、「その予測処理を実行するにはスケーラブルなコンピューティングパワーが求められる」とし、クラウドコンピューティングへのニーズは今後さらに高まっていくと予見した。

もっとも、こうした状況にあるにもかかわらず、先のCIOへの調査結果ではクラウドコンピューティングが9位にまで下がっている。そこで、山野井氏がクラウドコンピューティングへの顧客の関心度を問うと、山本氏は「関心が低くなっているのではなく、当たり前の技術になってきているのだと思う」との見解を提示。理由として「企業でのクラウド導入も1か0ではなく、シーンによって切り分けられるようになっている」と述べ、「例えば、金融業界においても以前はセキュリティを懸念する声が強かったが、現在は重要データを扱うシステムはオンプレミスに配置し、フロント業務のシステムではクラウドを利用するなど、役割分担ができるようになっている。大切なのは、事業の内容を考えて細分化し、適性を判断すること」と説明した。

"アラブの春"が実現に至った最大の要因

講演の最後には、富士通フォーラムの今回のテーマでもある「お客様とともに描く、これからの社会とビジネス」という点に話題が広がった。

社会に対して影響を与えたICTの功績としては、"アラブの春"の印象が強いが、山本氏はそこまでSNSが影響力を持った背景としてネットワークの進化を挙げる。「ネットワークの進化は、CPUの数十倍のカーブを描いている」と言い、その結果、「世界の情報格差がなくなり、あらゆる人にチャンスのある世界が形成された」と説明。その過程で、チャンスを得られる環境にない人が動き出した結果が、"アラブの春"へとつながったと解説した。

さらに山本氏は、富士通の中長期ビジョン「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」にも言及。「バックオフィス効率化、省力化、手書きの自動化からはじまったICTが、現在は社会の中に入り、社会の仕組みを変えるまでに進化した」と述べた後、今後富士通が、人に優しい、豊かな街づくりに貢献するICTベンダーを目指すことを明言。ICTの理想像については、「あらゆるジャンルにおいて、水のように入りこんで意識されることなく使われ、後で振り返ったときに"これがあってよかったな"と思われるものを提供していきたい」と語った。

講演では、豊かな街づくりに貢献したICTの事例として、さまざまなセンサー技術を使って生産効率を高めた農業システムや、医療機器とネットワークをつなげて専門医が遠隔地から診断する在宅看護システムなども紹介され、富士通の描くビジョンが具現化されはじめていることが示された。