パナソニックは5月16日、重量物の重さを軽減し、あらゆる方向への移動と正確な組み付けが可能となる新しいパワーアシスト技術を開発したと発表した。今回開発された技術成果は、5月27日~29日にアクトシティ浜松で開催される日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2012で発表される予定だ。

今回の技術には、「空圧人工筋」を用いることでパワーアシストする機構部を大幅に軽量化し、動きを予測するリアルタイムな制御により、搬送時のスムーズな操作感を実現した。

空圧人工筋は、ゴムチューブを繊維でくるむことにより空気圧による膨張を一方向に拘束し、生体筋肉と似た特性を持つ人工筋肉アクチュエータを実現する仕組みである。

特長は複数あり、まず空圧人工筋を用いたことで、モータ利用のパワーアシスト方式に比べ3倍のパワーウェイトレシオを実現すると同時に、大幅な軽量化を実現したことだ。パワーウェイトレシオとは、出力と質量の比率。比率が大きいほど軽い構造でありながら、大きな出力が取れることを示す。

また、空圧人工筋は柔軟性が高いことが特徴で、重量物のはめ込み作業といった、正確さを必要とする組み付け作業が可能となる点が特徴だ。さらに、あらゆる方向へ重量物を動かすことができ、必要な力を1/3に低減した操作感を実現している点もポイントだ。

従来の重量物を正確に位置決めするモータ駆動を利用し、手元操作盤により操作する方法のパワーアシスト技術があったが、この場合は重量物の組み付けには制約があるため熟練した作業が求められ、しかも装置本体が重量化してしまう問題があった。しかし、今回の空圧式パワーアシスト技術により、そうした問題を解決している。

今回のパワーアシスト技術を実現した技術的なポイントは3つだ。1つ目が、独自の人工筋モデルにより空圧人工筋を精密に駆動する「非線形ヒステリシス制御技術」。2つ目が、動きをリアルタイムに予測し、不要振動を適切に除去する「ダイナミクス補償技術」。そして3つ目が、操作する人がスムーズなアシスト感を体感できる「インピーダンス補償技術」だ。インピーダンスとは、物体が力学的な作用に対して抵抗しようとする性質のことで、質量や粘性といった特性で表される。

より詳細に述べると、まず空圧人工筋の非線形ヒステリシス制御技術だが、これは大きな収縮変位を有するゴム材料を利用することの弱点を補うための技術だ。空圧人工筋は、入力(圧力)と出力(張力)の関係が非線形なので定式化が困難なのである。それを実験データにより3次元曲面に効率的に表現する独自の数値表現モデルを開発して対応したというわけだ。

また、空圧人工筋内の繊維構造は、内部摩擦により出力に「ヒステリシス」が発生する(現在だけでなく、以前に加えられた力の影響が出ること)。これを独自のヒステリシス計算モデルを用いてリアルタイムに推定し、効率よく補正し、対応。この2点を組み合わせたのが、非線形ヒステリシス制御技術というわけだ。

2つ目のダイナミクス補償技術は、複数の関節からなるパワーアシスト駆動部の運動方程式をあらかじめ内部モデルとして持ち、これをリアルタイムで解くことにより、予想される重量物の振動の発生を事前に推定する技術である。これを打ち消す力をあらかじめ与えることで、柔らかいアシストアームに特有の不要振動を防止する仕組みだ。

3つ目のインピーダンス補償技術は、まず操作者が重量物に与える力を6軸力覚センサにより測定し、その測定値を基に実現すべきインピーダンス特性を満足する重量物軌跡をリアルタイムで計算。その軌跡に従ってパワーアシスト駆動部を動かすことで、任意のインピーダンス特性を実現できるという技術である。

これまで重量物を搬送することの多い作業現場では、吊り下げ式など対象物の重量をキャンセルする方法がよく利用されてきた。この方法では、重量物の重さにより搬送時にその重量による振られが発生したり、正確な組み付けがしづらい点があった。

今回のパワーアシスト技術を適用することにより、操作する人の意図を先読みし、重量物へ最適にアシストする力を加えることが可能になり、これによりスムーズな操作感と搬送・組み付け作業が容易となるという。

今後、重量物の搬送が行われる工場、建設現場、福祉分野などへの展開が期待されるとしている。

新パワーアシスト技術を用いた重量物搬送の様子。写真中の黒いチューブ状のものが空圧人工筋