東京医科歯科大学は5月14日、マウスモデルによる実験で、神経伝達物質「グルタミン酸」が作用する「グルタミン酸受容体」の1種である「NMDA型受容体」の過剰活性化が、大脳新皮質や海馬、扁桃体などの脳部位の形成障害の原因であることを新たに発見したと発表した。

成果は、東京医科歯科大 難治疾患研究所 分子神経科学分野の田中光一教授、相田知海助教らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間5月11日付けで米科学雑誌「PLoSONE」オンライン版に掲載された。

近年、自閉症や統合失調症などの脳神経系の疾患について、発生・発達段階での脳の微細な異常の関与が報告されるようになってきた。脳の発生・発達段階での形成異常を起こす原因としては、遺伝的要因や出産前及び出産時の傷害、ウイルス感染などの環境要因が挙げられている。ただし、遺伝的要因に比べ、胎児期の環境要因がどのようなメカニズムで脳の形成異常を起こすのかは不明だった。

グルタミン酸は脳にとって必要な神経伝達物質だが、過剰に存在すると脳に障害をもたらしてしまう。そして出産前や出産時における重篤な傷害の場合、胎児の脳が虚血状態になり、脳内に過剰なグルタミン酸が放出されてしまうのだ。

研究グループはこれまで、グルタミン酸を回収する輸送体を欠損させたマウスを作成し、脳内のグルタミン酸が過剰になる状態を再現させて研究を行ってきた。そのようなマウスでは、大脳新皮質、海馬、扁桃体などの脳の各部位で形成に障害が起きることを研究グループは発表している。

なお大脳新皮質とは、ほ乳類、中でもヒトでは非常に発達している、大脳皮質の内の表面にある神経細胞の層で進化的に最も新しい部分のことをいう。海馬は、大脳側頭葉の内下部にあり、記憶に関与すると考えられている。そして扁桃体は、側頭葉内側の奥に存在し、情動反応と記憶に関わる部位だ。

今回は、脳内の過剰なグルタミン酸がどのようなメカニズムで脳の形成障害を起こすのかを、グルタミン酸受容体に着目して研究が行われた。脳内のグルタミン酸が過剰になる状態を再現させたマウスから、グルタミン酸受容体の1つであるNMDA型受容体を欠損させると、大脳皮質、海馬、扁桃体の形成異常が正常に回復することが発見された。

なお、NMDAとは、N-メチル-D-アスパラギン酸のことで、グルタミン酸受容体の中でも、NMDAが選択的に作用することからそう分類されている。

出産前及び出産時の障害などの胎児・周産期の環境要因は、自閉症や統合失調症の発症を高める可能性が、これまで報告されてきた。また周産期の障害により、胎児・新生児の脳内に過剰なグルタミン酸が放出されることも知られている。

今回の研究は、脳内に放出された多量のグルタミン酸がNMDA型受容体を過剰に活性化させ、自閉症や統合失調症で異常が示唆されている大脳新皮質、海馬、扁桃体に形成障害を起こすことが示された形だ。

この結果は、周産期の環境要因による脳の形成障害の病態を解明する大きな手がかりとなるものと研究グループはコメント。さらにこの結果から、脳形成障害の新規治療薬の標的としてNMDA受容体が有用であることが示唆されたとしている。