目前に迫った「金環日食」 - 観測に向けた注意点をおさらい
いよいよ金環日食まで1週間を切ったが、みなさんは、観察の準備はOKだろうか? 我々(アラフォー世代から)の子どもの頃は黒い下敷きやガラス板にすすをつけて日食を観察したりしていたけど、本来はそんな方法は非常に危険。ちゃんと専門の日食グラスで観測しないと、失明の危険性すらあるのである(実際、筆者の知っている範囲でも、うっかり太陽を見てしまったその瞬間に失明してしまった人を知っているし、日食の度に世界中で「日食網膜症」が発生しているそうである)。
特に子どもたちは好奇心いっぱいで、つい肉眼で見ようとしてしまうから、保護者の方は気をつけないといけない。筆者も子どもの頃は、「太陽なんかに負けるか!」と無理して直接何度も見るというバカなことをしていたが(苦笑)、よく何の問題もなかったと運の良さに今さらながら胸をなで下ろさずにはいられない。おそらく、今の子どもたちの中にもそういうことをやってしまう子はいるはずで、そこまで極端ではないにしても、何も考えずに反射的に目をやってしまう子たちはもっと大勢いると思うのである。
しかも、今回は7時半前後が金環日食となり、日食そのものが始まるのは6時15分頃から終わりは9時前後と、一般的な登校の時間帯が含まれる。よって、登校班で移動している最中などに平気で見てしまう子もいるはずだ。5、6年生の班長さんたちに注意するようにいっても、下手したらその子たちだってつい見ちゃう可能性があるだろう。
まぁ、ちょっとやそっと見てしまった程度で、そうそう失明はしないとは思うが(筆者も今回の撮影でうっかり見てしまって、しばらく緑の玉が視界の中を踊っていた)、せっかく天文現象という天文イベントに興味を持ってくれているのに、眼に障害なんて負ってしまったら残念極まりないので、21日は登校班などに、いつも以上の数の保護者が付き添って学校まで行ってあげるのも手かも知れない(いつもより早く学校に集合するところも多々あるようなので、その場合は先生やボランティアの人たちの指示を聞いて観察した方が良いだろう。
日食グラスをつけて歩いていれば大丈夫と思う子どもたちもいるかもしれないが、かけてしまうと通常の視界はほぼ妨げられる状態になるので、今度はそれはそれで非常に危ない。なので、当日、日食サングラスを付けたまま歩いているような子がいたら、注意してあげよう。
何はともあれ、珍しい現象だから好奇心が沸いて見てしまうわけで、それを防ぐには、事前にしっかり見させてやって、子どもたちを納得させてやればいいのである。前述したように金環日食そのものは7時半前後。大都市では最も早いのが7時22分過ぎ(4分強持続)の鹿児島などで、高地が同26分(3分強)、大阪がほぼ同30分(3分弱)、名古屋が同31分30秒過ぎ(4分弱)、静岡が同32分過ぎ(5分)、東京が同34分30秒(5分強)、宇都宮が同36分過ぎ(4分強)といった具合だ。
よって、越境して遠隔地の学校に登校していたり、山間部などで登校するのに少し時間がかかったりするような子たちは別だが、いつもより少し早起きして準備を整えておけば、多くの子どもたちが自宅や近所の公園など安全な場所で見てから登校できるはずだ。たぶん金環日食を見て、辺りが暗くなるのも体験すれば、その後の太陽がだんだんと出てくる状況なら、金環日食前ほど興味津々ということはなくなるのではないだろうか。
もちろん、もっと中高校生や大学生、大人だって学校や会社に行く前にちゃんと見てから出かけた方がいい。つい気になって、手をかざして無理に直接見てしまう、なんてことは避けられるはずである。
まだAmazon.co.jpで買える日食グラスの性能を試す
というわけで、お子さんのいる家庭はもちろん、金環日食が観られる地域に住んでいる人はもう老若男女問わず、「オレ(ワタシ)は興味ないね」などといわずに日食観測用の機材を入手しておきたい。
日食観測用の機材はいろいろとあるが、安価で子どもでも安心して使える(ちょっとぐらい落としても壊れる心配がない)し、しまっておく時のスペースも取らないというのが、日食グラスだ。家族の人数分まとめ買いしたってそれほどかからないので、非常にオススメである。
さて、この日食グラス、まだ購入していないという人もいることだろう。家電量販店や書店など、専門店に行かなくても買えるので非常にお手軽だが、なかなか店頭まで買いに行けないとか、店頭には機能や価格の面から納得できる製品がない、なんてこともあるだろう。
そんな時は、Amazon.co.jpなどのインターネット通販やショップで購入してみるのも手だ。そこで、実際にAmazonで3つほど購入して太陽を覗いてみたので、それらを紹介してみたい。ここでは、価格的にリーズナブルな380円(税込)のAFOM JAPAN製「AFOM 日食グラス SOLAR V GLASS 金環日食観測用メガネ」(以下、SOLAR V GLASS)、中間の780円(税込)のケンコー・トキナー製「太陽観察専用SUNGLASS KSG-04」(以下、KSG-04)、少し高めの1330円(税込)のビクセン製「日食グラス カモメガネ」(以下、カモメガネ)3製品をピックアップしてみた(画像1)。
編集注:Amazon.co.jpの価格はいずれも5月7日時点のもの。価格は日にちによって変化する場合があります
まずは、非常にリーズナブルなAFOM JAPAN(ケイアイインターナショナルが輸入と発売元)のSOLAR V GLASSから紹介しよう(画像2~4)。SOLAR V GLASSの製品としての特徴は、説明書などは一切同封されておらず、非常にシンプルな構成が特徴で、それがリーズナブルさにもつながっている。
SOLAR V GLASSはメガネ型で、いちいち手で持って見るのは面倒、なんて人にはオススメだ。ただし、もともとメガネをかけている人はその上からかけるのは難しいかも知れない(メガネの形状とか顔のサイズとかもあるので、絶対に無理というわけではないかと思うが、少なくとも筆者はダメだった)ので、手で持って使う形になる。
寸法は折り畳まずにツルの部分もすべて伸ばすと400mm×48mmで、フェイス面(グラス部分)は139mm×48mm。重量は約6gだ。光学フィルター部分以外は紙(厚コート紙)製である。
特殊ポリマー樹脂でできた光学フィルターはアメリカ製で、ヨーロッパ及びアメリカの生産物安全基準の「ECDIRECTIVE89/686/EEC」をパス(日本には太陽観測フィルターに関しての安全基準がないそうで、世界的にヨーロッパのCF認定(CE規格)が広くされ移用されている)。フィルターサイズは44mm×30mmと、今回紹介する中では最大だ。安全性の面ではもちろん基準を満たしており、可視領域で0.003%以下、赤外線領域では0.5%以下を達成している。
同製品で見た太陽は、オレンジ色で見える(画像5)。今回の3製品はみな光学フィルターが異なる関係で見える色が異なっており、これは好みといったところだろう。
なお、本来はカメラや望遠鏡などの光学機器のレンズにこれらのフィルターをつけて使用することは製品の注意書きで禁じられている(CCDに太陽光が当たったりしたら、壊れる可能性がある)。今回は特別に比較のために撮影している。カメラなどで撮影したい時は、使用する光学機器用の日食フィルターをつけて撮影しよう。
ちなみに、携帯電話やスマートフォンで金環食の瞬間を撮影しようと思う人も多いかも知れないが、それも携帯電話のカメラを壊す危険性があるので、どうしても撮影したいという人は、最低でも、今回紹介したような日食グラスを使って撮影した方がいい。ただし、その時は直接太陽を観ないように注意すること。
編集注:今回は日食グラスを用いて撮影を行っておりますが、これは本来の使い方ではありません。記事を参考にして撮影される際は、すべて自己責任において事故のないようご注意下さい。また、記事を参考にして撮影された際の事故・トラブルについては、著者並びに編集部では一切責任を負いかねます
また、3製品ともカメラのレンズの前にピッタリくっつけて無理に撮影しているので、微妙にピントが合っていなかったり、ブレがあったりしているが、肉眼ではもっときれいに見えるので、安心してほしい。
続いては、今回の中では中間の価格帯、Amazon価格780円(メーカー希望小売価格はオープン)のケンコー・トキナー製KSG-04(Amazonでの製品名は「Kenko KSG-04太陽観察 紙製サングラス日食グラス」)だ。ケンコー・トキナーはカメラの交換レンズやレンズフィルターなどで知られる国産企業である。ここで取り上げたKSG-04以外にも、カラーリングの異なる03、05、06がラインナップされている具合だ(画像6~8)。
画像6。ケンコー・トキナー製KSG-04。紙製のパッケージに収納されている |
画像7。KSG-04本体の表面。光学フィルターのサイズは一件小さいが、太陽は思っているほど大きくないので、意外と視界は問題ない |
KSGシリーズは、アイマスク型とでもいうのか、ツルがない形をしている。そのままでは顔にかけられないのが、両脇に穴が開いているので、そこにヒモを通して耳にかけられるようにすることで(ヒモは製品には同梱されていない)、アイマスクのようにして使うことが可能だ。鼻にかけられるにデザインされている点も気が利いている。また厚みがあるので、指で挟んで持ちやすいので、ヒモを通すのが面倒だったら、そのまま使えばいい。
サイズは幅が184mm×高さ(サイト上では奥行きと表現されている)76mm×厚み(サイト上では高さ)が4mm。重量は22gだ。光学フィルターサイズは幅25mm×高さ12mm(筆者の実測)。本体の素材はこちらも紙製である。
光学フィルターは独バーダープラネタリウム製「アストロソーラー」が使用されており、ヨーロッパの安全基準のCE規格およびEN規格(「CE,EG-Norm89/686,EN169/92」)に準拠。NASAでも安全に観測できる太陽観測フィルムとして紹介されており、信頼性の高さが特徴だ。フィルター面積はSOLAR V GLASSと比べるとかなり小さいが、太陽を見るにはまったく問題がない。ちなみに見た感じ、SFアクション映画「アイアンマン」の眼みたいである(笑)。
同製品で見た太陽の色合いは、白いのが特徴(画像9)。個人的にはかすかに青や紫が入っているように思う。個人的なイメージとしては、太陽はもう少し黄やオレンジなどの暖色系が混じっていると思うので、わずかに青や紫などの寒色系が入った白なので、ちょっと太陽っぽくない感じだ。ただし、シャープな感じはあって、これはこれでよしと感じた次第である。
最後は、今回の中では1330円と最も高価だったビクセン製の日食グラスシリーズの1つ、カモメガネ(Amazonでの製品名は「ビクセン 日食グラス 金環日食観察グラス かもめがね」)(5月14日時点でかもめがねは品切れ中。ただし絵柄違いのモデルの在庫は多々ある)だ(画像10~12)。ビクセンは天体望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡など光学機器系のメーカーとして知られる日本企業である。
このカモメガネ、実は同社の「日食グラス」シリーズの1つで、とにかくデザインが豊富なのが大きな特徴。その数、なんと116種類+αで、販売店などのオリジナルデザインもとても多い。かくいうカモメガネも、ルーペや拡大鏡、レンズの専門店「ルーペスタジオ」オリジナルのデザインである。
形状はケンコー・トキナーのKSGシリーズと同じアイマスク型。両脇にヒモの通し穴が用意されており、鼻にかけられるようにちゃんとU字型に凹んでいるデザインもほぼ一緒だ。サイズは、幅182mm×高さ94mm×厚み2mm(スペック表がなかったため、筆者が実測)。重さは約30g(同じ筆者が実測)。光学フィルターのサイズは幅25mm×高さ10mm(同じく筆者が実測)。本体の素材はこちらも紙製だ。
そして何といっても特筆すべきポイントは、ビクセンが日本国内のアクリル樹脂メーカーと共同開発し、国内で製造した高品位遮光プレート「ソーラープロテック」の性能の高さだろう。アクリル樹脂はそれ自体の厚みが2mmあり、遮光シートのように穴が開いたり敗れたりといった心配をあまりしなくていい頑丈さが心強い。
ソーラープロテックは可視光線に加え、紫外線と(近)赤外線も安全レベルまで下げられる遮光性能を持つ。可視光部の視感透過率が0.00014%(JIS T8141遮光能力15等級)、紫外部の透過率が0.0001%(JIST8141遮光能力13等級)、近赤外部の透過率が0.0346%(JIS T8141遮光能力12等級)という具合だ。国内JIS規格に則り、JIS認定検査機器により遮光能力(透過率・視感透過率)、そのほかの検査を実施済みである。
公式サイトには産業安全衛生総合研究所の奥野勉氏のコメントが掲載されており、仮に200時間太陽観察を続けても目に障害を引き起こすことはない、と判断できるそうだ(それでも、連続では3分程度で一休みを入れること)。
それら本体性能に加え、全36ページの「日食グラス取扱説明書・天体観察ガイドブック」が同梱されている点も魅力だ。観察の仕方や5月21日当日の全国の主要都市の日食データ(部分日食のみの地域も含まれている)が載っているほか、今後の2042年までの日本(および近海)で見られる日食のスケジュール、今回の日食から間もない6月6日の金星の日面通過、そして2012年11月14日のオーストラリアの日食、そのほか天体観測、全国の主立ったプラネタリウムなどのことが紹介されている。
同製品で見た太陽は、SOLAR V GLASSと同様にオレンジ系(画像15)。画像だとわかりにくいかもしれないが、肉眼で見た感じでは、SOLAR V GLASSのオレンジ色よりももう少し薄いオレンジで、KSG-04ほどは白くない。個人的なイメージではあるが、今回の3製品の中では太陽のイメージに一番近い感じである。また、画像もシャープだ。
さて、今回の3製品、どんな人がどれを買えばいいのかというと、すでに金環日食の観測データをたっぷりと持っていて、「とにかく当日、見られればいい」とか「家族が多いので全員分を買うのに総費用を下げたい」、または「塾の生徒たちみんなに配りたい」なんて場合は、やはりAFOM JAPANのSOLAR V GLASSだろう。
同じくデータはそろっているけど、もう少し高級な製品を、と思うのならケンコー・トキナーのKSGシリーズだ。子どもじゃないんだから、紙製のメガネをかけているのはちょっと、なんて人もこちらの方が手で持ちやすいのでいいかも知れない。
そして価格は若干高めでも、この際、手元にガイドブックが1冊あると安心、という方はいうまでもなくビクセンの日食グラスシリーズだ。レンズから何から「国産品が安心」という人にもオススメだ。さらに、前述の2点の光学フィルターがフィルム製だが、日食グラスシリーズはアクリル製なので頑丈である点もポイントだろう。
ともかく、日本の首都圏をはじめ、名古屋、大阪、そして四国や九州など多くの都市で金環日食が見られるなんてことは当分ないので(本当に、今回は日本をなぞるようである)、ここはぜひ見ておきたいし、子どもたちにもぜひ見せておいてやりたいところ。まだ観察用の機材を購入していないという人は、今回紹介したようにそんなに高いものではないので、ぜひ注文しよう。Amazonなら早ければ翌日には届くし、遅くても数日の内には届くので21日までには間に合うはずだ。
あと、サイエンスライターとしてのお願いは、せっかくお金を出して買うのだから、金環日食が終わったら捨ててしまったり、ホコリを被らせてしまったりするのではなく、この後もぜひ、使ってやってほしい。
前述したように、金環日食と比較すれば少々地味だけど、6月6日には金星日面通過もあるし、その後も太陽が関係する天体現象にも注目してほしい(残念ながら肉眼なので、黒点は観られないのだが)。太陽を見ながら、あそこで重力による核融合が生じて膨大なエネルギーが放射され、8分強かけてこの地球まで光が届いているんだなぁ、などと身近なとこからサイエンスをぜひ感じてもらえれば幸いである。