国立天文台は、国際天文学連合は新しく承認された小惑星の命名を国内向けに公表し、東日本大震災からの復興を願い、被害が大きかった地域の地名も多数つけられたことを発表した。
国際天文学連合は、先頃発行した「小惑星回報」(MPC:Minor Planet Circular)を通じて、新しく承認された小惑星の名前を公表。2012年5月16日から新潟市の朱鷺(とき)メッセで行われる国際会議「小惑星・彗星・流星2012」がアジア初の開催となることにちなみ、日本にゆかりの深い命名も多数承認された形だ。
今回は東日本大震災からの復興を願い、被害が大きかった地域の地名も多数つけられた。青森、岩手、宮城、千葉、栃木などの県名や、福島県の会津、中通り、浜通りなどの地方名のほか、岩手県の陸前高田市や長野県の栄村、新潟県の津南町なども含まれている。
それに加えて、今回の会議開催地である新潟市のほか、この分野の日本やアジアの研究者名、この分野で活躍を続ける中央アジアの天文台名、それに加えて、この国際会議で研究成果を発表する高校生を擁する3つの高校(小倉、一宮、三田祥雲館)の名前も承認されている。
被災地名が小惑星名になった例は、すでに2012年3月に承認されたTohoku(東北)があるが、一度にこれほど多数の命名がされたのは初めてのことだ。
今回承認された被災地関連の小惑星名の一覧は以下の通り。小惑星名(カッコ内は小惑星番号)、発見年月日、由来。画像は、石垣島天文台が撮影したもの。
- (14701)Aizu/2000.1.7/会津(画像1)
- (19534)Miyagi/1999.4.6/宮城(画像2)
- (19691)Iwate/1999.9.5/岩手(画像3)
- (19701)Aomori/1999.9.29/青森(画像4)
- (19713)Ibaraki/1999.10.3/茨城
- (19731)Tochigi/1999.12.9/栃木(画像5)
- (20613)Chibaken/1999.9.11/千葉県(画像6)
- (21966)Hamadori/1999.11.27/浜通り(画像7)
- (22719)Nakadori/1998.9.22/中通り
- (22745)Rikuzentakata/1998.10.14/陸前高田
- (22885)Sakaemura/1999.9.8/栄村(画像8)
- (22914)Tsunanmachi/1999.10.13/津南町(画像9)
- (19509)Niigata/1998.6.29/新潟
- (15526)Kokura/1999.12.8/小倉
- (19853)Ichinomiya/2000.10.2/一宮
- (15552)Sandashounkan/2000.5.27/三田祥雲館
太陽系には、地球を含む惑星や準惑星といった大きな天体だけでなく、小さな天体がたくさんある。これらは「太陽系小天体」と一括して分類されているが、この内で主に岩石質の小天体を小惑星と呼び、火星と木星の間にある小惑星帯に多数存在しているのは、理科好きの人で知らない人はいないぐらいよく知られた知識だろう。
そして小惑星の名前は、伝統的にその小惑星を発見し、その軌道を決めるのに最も貢献する観測が行われた個人あるいはグループに、その命名提案権が与えられる。提案された名前について、国際天文学連合の第三部会の下にある小天体命名作業部会(日本からは中野主一氏がメンバーとして参加)で適切かどうかが審査される。
命名提案権を持つ個人やグループが自発的に名前を考えて提案する場合がほとんどだが、日本の小惑星探査機はやぶさが目標とした小惑星イトカワ(Itokawa)のように、命名提案権を持つグループと関連研究者とが相談しながら、適切な名前を提案する場合もあるのだ。。
今回、日本にゆかりの深い名前が多数命名されたのは、2012年5月16日から20日まで新潟市の朱鷺(とき)メッセで開催される国際会議「小惑星・彗星・流星2012」(組織委員長・佐々木晶国立天文台教授)がきっかけとなっている。
この会議は、太陽系小天体の研究者が集う国際会議としては最大規模で、1983年にスウェーデンのウプサラで始まってから、ほぼ3年ごとに開催されてきた。2008年に開催された米国ボルチモアの会議では、次回の第11回目をアジア初開催とし、会場を日本にすることが決まり、当初は2011年7月開催の予定だった。しかし、ご存じの通りに東日本大震災と引き続いて起こった福島第一原子力発電所の事故の影響により、中止となってしまったという経緯がある。
組織委員会の中では、ほかの国で開催すべきとの声もあったが、日本を応援する意味でも、延期して日本で開催すべきであるとの意見も強く、2012年の開催が決定した次第だ。
この国際会議の組織委員会は、当該分野の研究者を激励する意味で新しい小惑星に関連研究者の名前を提案することが恒例となっている。今回も、組織委員会は、まだ小惑星に命名されていない研究者の候補を議論し始めたが、その過程で、被災地の復興を願って地名をつける方向での検討も進んだ。
命名の候補となる地名については、今回の会議の実行委員会(実行委員長・渡部潤一 国立天文台教授)で原案を作成し、命名提案権を持つ発見者グループの米ローウェル天文台のエドワード・ボーウェル氏と協議しながら、最終案を練っていった。
なお、ローウェル天文台が命名提案権を持っている理由は、今回の小惑星はすべて、米アリゾナ州フラッグスタッフにある同天文台の近地球小天体探索プロジェクト「LONEOS」(the Lowell Observatory Near-Earth-Object Search、ロニオス)による発見だからだ。LONEOSは、1993年から始まった近地球小天体を探索するプロジェクトだ。
よって、今回の命名は、公式にはすべてローウェル天文台のプロジェクトチームが国際天文学連合へ提案したことになっている。
実行委員会は、東日本大震災災害救助法適用地域に基づき、青森、岩手、宮城、千葉、栃木の各県名、福島県の会津、中通り、浜通りといった地方名、及び、岩手県の陸前高田市や長野県の栄村、新潟県の津南町などを国際天文学連合に提案し、今回の承認となったというわけだ。
多数の小惑星の命名権を事実上譲ってくれた、ローウェル天文台のボーウェル氏らスタッフの粋な計らいに、日本人として感謝したい。