前回はUXの定義に触れた後、UXPという新しい概念を解説した。今回は、UXアーキテクトという職能を紹介したうえで、UXにまつわるエピソードや企業におけるUXP構築のポイントなどを解説する。

執筆者紹介

崔 彰桓(チェ チャンファン) - トゥービーソフトジャパン COO


1976年12月1日、韓国生まれ、35歳。03年、韓国外国語大学を卒業し、韓国貿易ITアカデミーのエンベデット課程を卒業。大学時代からプログラミングが好きで、大学に通いながらシステム開発のアルバイトをしていた。卒業後の04年、教保情報システムズの日本法人に入社。

06年にトゥービーソフト(韓国)に入社し、08年からトゥービーソフト東京支社長を経て、現在はトゥービーソフトジャパンのCOO(最高執行責任者)として当社の日本市場における営業全般を総括している。

※ 韓国のトゥービーソフトが日本事業及び顧客サポート強化を目的として100%出資し、新設された日本法人。4月2日設立。

UXアーキテクトに求められるもの

UXの範囲をどこまで見るのかによりデザインという単語の意味が変わる。単純なUIデザインだと考えることもでき、全体プロセスに対する設計として考えることもできる。

実業務ではこれを決める役割はUXアーキテクトが担当することになる。まだ韓国ではUXアーキテクトという単語自体がなじみがないこともあり、UXアーキテクトの求人情報にあるUX企画者やUXデザイナーの募集要項をみても、通常のプランナーやデザイナーの募集要項と大きく異ならない。ただ単に肩書の名前が変わっただけのように思えてしまうような状況もある。

だが、UXデザインという言葉とその本来の意味合いが市場に普及すれば、UXアーキテクトの役割はUXデザインを組織的に行う役割を担うようになる。

アーキテクトはギリシャ語‘arkhitekton’に由来する。‘arkhitekton’は親分を意味するarkhiと大工を意味するtektonが合わされた単語である。これは日本の明治時代に伊東忠太(いとうちゅうた)により建築家と翻訳され、現在に定着している。もっとも建築業界ではアーキテクト用語を使用されておらず、主に使用されるのはソフトウェア業界のようだ。

Wikipediaによると、建築家は建物を建築する時に全体の建築計画をたてて設計しながら監督する人だ。もう少し広い意味で考えれば、依頼主の要求事項を建築環境に反映する人と言える。

これはUXアーキテクトを説明する場合においてもしっくりくる説明である。UXアーキテクトもユーザーの要求事項を開発環境に反映するのが役割である。良いUXアーキテクトは、ビジネス要求事項をユーザーとのインタラクティブな対応の中でUserExperienceに変える。この作業過程の中で発生する多様な問題を解決することができるよう、適切な技術を用いることができる能力を持った者が真のUXアーキテクトである。

UXアーキテクトは部分的な開発作業などに従事せず、開発チームがしっかりとビジョンを持てるように開発全体のプロセスの軸として機能しなければならない。このように書くとプロジェクトマネージャーやソフトウェア アーキテクトと変わりないのではないかという話になるが、一般的なプロジェクトマネージャーやソフトウェア アーキテクトとUXアーキテクトとの最大の違いを一言でいえば、’multidisciplinary’(色々な学問分野にわたった、総合的という意味を持つということ)という単語で説明することができる。エンジニアリング、製品管理、デザイナー、ユーザーリサーチャー、コピーライター、Web開発全般にわたって広い見識を持ち、各専門家と協力し、緊密連携をもって業務を遂行できる能力が必要なのである。

ユーザーエクスペリエンス・プラットホーム(UXP)の概念図

韓国では最近、ユーザーエクスペリエンス・プラットホーム(UXP)を構築するべく、UXアーキテクトによる多様な実戦経験をもとにした大規模コンサルティング案件が増加してきている。しかし、筆者はこのようなやり方は減らすべきだと考えている。

UXPを構築するためには様々な分野と要素が必要である。そのため、1つのプラットホーム内で反復的なプロセスが発生しがちである。そこで、どの部分に集中するべきかなど、都度判断してプロジェクトを進めていかないと時間もコストも膨大なものになる。また、既存のコンテンツをどのように活用するのかを検討するのも重要だ。なぜなら多様なコンテンツ形式を自動で認知して処理できる方法をUXP内で提供しなければならないからである。重要なのは、個別のパターンに合わせてリソースを追加していくのではなく、如何にして新しいリソースを使わずに、再使用性を高める技術を提供できるかということである。