東京都市大学(都市大)は4月25日、Siベースの室温発振レーザーを可能とする高効率発光の電流注入型発光(EL)デバイスを開発したことを発表した。同成果は同大総合研究所 シリコンナノ科学研究センターの丸泉琢也センター長、澤野憲太郎 准教授、徐学俊 博士研究員らによるもので、5月6日より開催される米国ECS学会で5月9日に講演が行われる予定のほか、速報誌「APEX(Applied Physics Express)」ならびに「Optics Express」にて近日中に公開される予定。

左から東京都市大学 総合研究所 シリコンナノ科学研究センターの丸泉琢也センター長、澤野憲太郎 准教授、徐学俊 博士研究員

Si系半導体は間接型半導体と呼ばれ、発光はするものの、その効率が低いために発光デバイスとしては不適当とされてきた。同研究チームでは、こうした問題を解決するために、電子を極狭領域に閉じ込め、発光再結合確率を増やす量子ドット構造をGeを用いて形成し、p-i-nダイオード中に埋め込むことで、室温での発光を可能とする基本デバイスを2010年5月に開発していた。しかし、同デバイスでは発光強度不足と発光の鋭さを示す線幅がブロードであったため、さらなる発光効率の向上と線幅の先鋭化が求められていた。

左のスライドが2010年に開発されたGe-QDの発光源としての性能。40Kにおける発光スペクトルを見ると、鋭角でなく、ブロードな状況となっている

今回の研究では、従来採用してきた縦型p-i-n構造では発光部の上に電極が形成され、光を取りにくいという点などから横型構造への転向を模索。SOI基板上にGe量子ドット(Ge-QD)/Siの多層膜を形成した後、不純物ドーピングによりホール(正孔)が多数を占めるp型Si領域と、電子が多数を占めるn型Si領域を形成し、外部から電流が量子ドットの領域に注入できる構造を作製することで発光することが確認された。具体的には、光が外部(横方向)に漏れないように、円柱形状を持つ空孔を三角格子状に周期的に加工、配置する一方、未加工の領域として空孔3個分を残し、その部分を光を共振させるL3共振器とすることで、従来に比べ発光効率ならびにスペクトル線幅の先鋭化を実現した。

左スライドの下側が今回開発した新構造の発光デバイス。SOI基板の上にGe-Si-Ge-Si-Ge-Siの3層構造の量子ドットの膜を形成した。右スライドはその量子ドットの中心部(発光部)。丸部分が空孔。中央部の空孔がない空孔3つ分の領域をL3共振器として、従来以上の高い発光効率とスペクトル線幅の先鋭化を実現した

今回作製された新構造デバイスの実験データとしては、0.5~3mAの電流変化範囲において室温(300K)での発光を確認した。また、従来の縦型デバイスやマイクロディスクと比べても、鋭角な(ブロードでない)スペクトルが確認されたほか、SOI基板のBOX層を除去することで、III-V族などの化合物を含まないSi系ELデバイスとして世界最高クラスとなるQ値1560を達成したという。

今回開発された新規構造ELデバイスの室温時の発光特性

なお、丸泉氏は今後の方向性として、BOX層を除去した状態で通信波長となる1.5μmを狙った改良を行っていきたい(現状は1.4μm前後)としており、量子ドットサイズや形状、位置のほか、SiとGeの積層膜の層数などの最適化をはかることで実現したいとしている。また、製造に現状、MBE(molecular beam epitxy:分子線エピタキシ)法を用いているため、より量産に適したCVDによる製造方法の模索なども平行して進めて行き、3~4年程度でレーザー発振が可能なレベルまで行きたいとしている。