害虫が殺虫剤に抵抗性をもつのは、害虫自身の遺伝子が突然変異を起こしたためだと一般に考えられていたが、実は、害虫が「土壌中で殺虫剤を分解する細菌を体内に取り込んでいるからだ」とする研究結果を、産業技術総合研究所(産総研)や農業環境技術研究所(農環研)などの共同チームが「米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版」(4月23日付)に発表した。
昆虫の体内には多くの微生物が共生し、さまざまな働きをしている。産総研の研究者らは、特に防除が困難な昆虫としてカメムシ類に着目して研究し、中でも、大豆の害虫として知られる「ホソヘリカメムシ」の消化管にある「盲のう」という袋状の組織に、「バークホルデリア」という細菌が共生していることを見出した。さらにホソヘリカメムシにおいては、共生細菌が母から子へと伝わる(垂直伝達)のではなく、幼虫となって土壌中のバークホルデリアを口から取り込み共生すること(環境獲得)も解明した。一方、農環研は農地改良や環境浄化を目的に土壌微生物のいろいろな機能について研究し、そのうちのバークホルデリアが殺虫剤を含む化学物質を分解する細菌であることを発見した。
共同チームは、世界で広く使われている有機リン系の殺虫剤「フェニトロチオン」を分解するバークホルデリアの有無について調べたところ、日本各地で採集されたホソヘリカメムシ846匹からは検出されなかった。これは日本の農耕地でのフェニトロチオンの使用回数が年間1-3回に管理されているため、フェニトロチオン分解性のバークホルデリアの密度が検出限界以下にとどまっていると考えられる。
そこで野外農耕地から採取した土壌にフェニトロチオンを週1回、計4回散布したところ、フェニトロチオン分解性のバークホルデリアの密度が増えた。この細菌が増えた土壌でホソヘリカメムシの幼虫を飼育したところ、成虫になるまでに90%以上の個体からフェニトロチオン分解性のバークホルデリアが見つかった。この分解性細菌に感染したホソヘリカメムシに殺虫剤を与えても5日後には80%ほどが生存していたが、分解性のない細菌に感染したホソヘリカメムシの生存率は10%以下だったという。
今後は、殺虫剤分解性のバークホルデリアの全ゲノム解読を進め、宿主昆虫が殺虫剤抵抗性を獲得する際の仕組みなどを調べる。新しい害虫防除法の開発にもつながりそうだ。
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