九州大学は4月23日、動脈硬化の進行を抑える「ジペプチド」(アミノ酸が2つ結合したもの、「トリプトファン-ヒスチジン」)が血管平滑筋のカルシウムシグナルを遮断し、「カルシウムチャンネル」(細胞内へのカルシウムイオンを通過させるルート)を閉じる作用により、血管の収縮を防ぐことを明らかにしたと発表した。
成果は、九大農学研究院の松井教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、欧州生化学会速報誌「FEBS Open Bio」2012年4月号にオンライン掲載された。
これにより、食品タンパク質を源として発酵や酵素分解によって生成する低分子ペプチドの中には動脈硬化や高血圧の原因となる血管老化を予防し、血管力を高める作用があることが明らかになった。
ペプチドとは、アミノ酸がつながった化合物であり、発酵食品などに含まれる身近な食品成分だ。松井教授らの研究室ではこれまで、アミノ酸が2つあるいは3つつながった低分子のペプチドを摂取すると、血圧が改善されることをヒト試験で明らかにし、研究開発された素材は特定保健用食品(トクホ)として認可を受けているという実績を持つ。
良質のペプチドを摂取することは健康の維持や生活習慣病の予防・改善によいとの報告はあったが、どのように身体の中でその作用を発揮するのかについては十分に明らかにされていなかった。
松井教授らは、これまで種々検討してきた低分子ペプチドの1種である「ジペプチド」を100mg/kg、3カ月間マウスに投与すると大動脈の病変形成が抑えられ、動脈硬化の進展を予防することを2010年に報告している(画像)。
今回、このペプチドによる血管系の疾患の予防が、血管平滑筋でのカルシウムシグナル系の遮断であることを明らかにした。正確には、ジペプチドが「カルモジュリン依存性キナーゼII」活性を抑えることで、カルシウムチャンネルのリン酸化を抑制し、カルシウムチャンネルを閉じるというものである。
カルモジュリン依存性キナーゼIIは、カルシウムチャンネルの細胞内側をリン酸化させる酵素で、チャンネルがリン酸化されることで開き、細胞外からカルシウムイオンが細胞内に流入してくる仕組みである。なお、血管の収縮に大いに関わるカルシウムイオンが細胞内に入るルート(カルシウムチャンネル)をペプチドが閉じようとする作用は世界でも初めての知見だ。
ペプチドの摂取によって血管力の低下原因の1つである収縮が和らげられることは、血管に関わる病気(動脈硬化や高血圧)を防ぐことができる可能性があるという。
ペプチドによって血管力が高まることは、糖尿病予防(インスリン抵抗性改善)にもつながる可能性があり、今後の機能性食品開発のターゲットの1つとしてペプチドが大きなキーワードになる可能性があるとも松井教授らコメントしている。