九州大学(九大) 先導物質化学研究所の玉田薫 教授の研究チームは、透明淡黄色の銀ナノ微粒子2次元結晶シートを金基板上に積層すると、積層数に応じてオレンジ-赤-ピンク-紫-青の呈色が得られるという新たな光学現象を発見したことを発表した。これは金属基板と金属微粒子シートのプラズモン相互作用によって生じるもので、同手法を用いると、曲率のある基板でも容易にフルカラーナノコーティングをすることが可能になるとしており、プラズモン構造を生かした高感度バイオセンシングや高効率光電子デバイスへの適用も期待できるという。 従来、金属表面の呈色技術として、有機色素によるコーティングが行われてきたが、色調を変えるためには色素の種類を変更することが必要だった。また、光や熱などに対する安定性や毒性なども考慮する必要があった。
今回の研究では、代替として金属光沢カラーコーティング法として、金属ナノ微粒子2次元結晶シートによる手法を考案した。
具体的には、粒径のそろった銀ナノ微粒子を水面上で自己組織化により2次元結晶化させる技術を確立することで実現した。シートの厚みは5nmで、疏水性表面であれば材質を選ばず転写でき、積層も可能で、研究過程で、本来ガラス上では透明淡黄色の銀微粒子シートが、金基板上では積層数に応じて鮮やかに呈色する現象が確認されたのだ。
その後の研究で、この呈色は金基板・銀ナノ微粒子に限ったものではなく、ほかの金属基板・金属ナノ微粒子の組み合わせにおいても、色調は異なるものの同様に生じる現象であることが確認された。
さらに電磁場解析シミュレーション(FDTD法)による検討を行った結果、金属基板上金属微粒子2次元結晶シートに光を入射した際、微粒子シート内面および層間のプラズモン相互作用と金属海面でのナノ光学現象が同時に発現し、その結果このような不思議な色の変化となることが理論的に解明された。これは過去に報告例のあるプラズモン散乱光による呈色や微小光共振器構造による呈色とはまったく異なる原理によるものであったほか、開発された金属微粒子2次元結晶シートは、色調が美しいだけでなく、特定波長の光を界面に強く閉じ込める性質を持っていることが判明した。
これらの性質から、下地の金属基板や金属微粒子の種類・サイズ・混合積層構造を選択することで、色調を無限に変えることが可能となるほか、これらの色は物理的であるため長期的に安定して存在することが可能だ。また、材料が貴金属であるため、毒性も低く、かつ厚みも数nmオーダーで済むため、コスト的にも抑えることが可能となっている。
金属微粒子シートの呈色は散乱に由来するものではなくため、鮮やかかつ物理色であるのにほとんど視野角依存性がないという特長を有することから、自動車のボディや携帯電話、インテリアなど、さまざまな分野への応用可能性が想定できるという。
なお、金属ナノ微粒子によるプラズモン研究は、金属ナノ微粒子に吸収された光がナノ界面にエネルギーとして蓄えられ、さまざまな光反応に応用可能であることから、先端デバイス分野での注目を集めつつあり、ライフイノベーション分野として高感度バイオセンシング法への応用による診断医療分野の進展やグリーンイノベーション分野としての太陽電池などの光電子デバイスの高効率化などへの応用が期待されており、研究チームでも今後、先端医療計測分野に貢献する蛍光増強シートの実現に向けた研究開発を進めているとしている。