産業技術総合研究所(産総研)は、技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)、NECと共同で、出力電流の均一性を高めたカーボンナノチューブ(CNT)トランジスタをプラスチックフィルム上に形成したと発表した。
CNTは、電気的・構造的に優れた特性を持つ他、印刷エレクトロニクスのトランジスタ材料として期待されており、産総研では、今回の開発がフレキシブルかつ大面積デバイスの実現に向けた成果となったとしている。
開発のポイントは大きく2つ。1つは印刷時のコーヒーステイン現象を抑制し均一なCNTチャネルの形成したこと。コーヒーステイン現象は、付着した液滴が乾燥すると、リング状の汚れが残る現象を言い、溶質を含む液滴が乾燥する過程において、溶媒の蒸発が縁部分で大きいことから、液滴の中心から縁に向かう流れが生じて、溶質が液滴の縁に移動・蓄積することをいう。CNTインクでもこの現象が発生し、インクジェットやディスペンサで印刷すると、印刷外縁部での密度の増大が生じる。CNTの密度が増大すると、混在している金属型CNTによる短絡などにより、オンオフ比などのトランジスタ特性が劣化する。今回、CNTインクの印刷面にあらかじめ単分子膜(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)を形成することで印刷面へのCNTの吸着を促進し、コーヒーステイン現象を抑制してCNTチャネルを均一に印刷形成することに成功した。
また、CNTインクは金属型・半導体型CNT分離技術を用いて分離した、純度95%以上の半導体型CNTを用いている。従来、全ての構成要素を印刷で形成するCNTトランジスタでは非常に大きい出力電流のばらつきが課題となっていたが、バラつきを30%に抑えることができた。
もう1つは、界面活性剤除去工程の改良により、高速動作の指標となるキャリア移動度を向上させたこと。CNTインクには、電気抵抗が高い界面活性剤が含まれているため、印刷後に除去する必要がある。従来は、熱処理と洗浄処理を組み合わせた除去工程を採用していたが、これを改良して熱処理前にウェット処理を行い、キャリア移動度を従来の40倍となる3.6cm2/Vs(オンオフ比1000)まで向上させた。改善した要因については、ウェット処理によりCNTが互いに若干凝集し、CNT間の接触抵抗が低減したためと見ている。
なお、同成果は、4月18日付の「Applied Physics Express」に掲載された。